舌診の研究論文
剥苔(剥落苔)と中医学における病位証素との関連を検討したものである。現代の著名中医師295名による7,680症例、臨床患者1,018症例、さらに弁証データベース5,139症例を対象として、剥苔の出現頻度と各臓腑との関連性を解析した。7,680症例中、剥苔は61例(0.79%)に認められ、関連する病位証素は肝24.59%、腎22.95%、胃16.39%、脾14.75%、肺8.20%、心6.56%の順であった。肝・腎・胃における剥苔出現率に統計学的有意差は認められなかった。臨床患者1,018例では24例(2.36%)に剥苔が認められ、腎および肝との関連が比較的強かった。また、5,139症例を用いた診断寄与度の解析では、肺12.08、腎11.02、肝9.63、心9.62、胃9.10の順に診断重みが高かった。
従来、剥苔は胃陰虚や胃気不足によって生じると考えられてきた。胃陰が枯渇すると津液が舌面に上承できず、胃気が不足すると舌苔を形成する作用が低下するためである。しかし、本研究では剥苔が胃だけでなく、肝・腎・肺とも密接に関連することが示唆された。したがって、剥苔を単純に胃陰虚の徴候と判断するのではなく、肝腎の虚損や肺の病変を含めて総合的に弁証する必要がある。ただし、剥苔を認めた症例数は比較的少なく、各臓腑との関連についてはさらなる検証が必要である。本論文は舌診と病位証素の関連を検討した観察研究であり、具体的な治療方剤、生薬構成、用量についての記載はない。(戴芳ら、2011年)
2013~2023年に発表された古代中医文献に基づく舌診理論の研究を総括した総説である。舌診は舌質、舌苔、舌形、舌態、舌下絡脈などの変化から臓腑の機能状態、寒熱虚実、気血津液の盛衰、病勢の進退を判断する診断法である。その理論的基盤には、外部の舌象から体内の病態を推測する「象思維」、陰陽五行、易経八卦、気機昇降、臓腑経絡学説がある。舌質を土、陽気を日光、津液を水、濁気を肥料、舌苔を草に例えることで、舌苔の生成と変化を説明する考え方も紹介されている。
『黄帝内経』では「心開竅於舌」「舌為心之苗」が重視され、舌と心の生理・病理的関連が論じられた。張仲景の『傷寒論』では「舌胎(舌苔)」の概念が明確化され、舌質・舌苔・舌態から三陽三陰、臓腑病変、寒熱、瘀血、病勢を判断する体系が発展した。後世の『敖氏傷寒金鏡録』では舌象を図譜化し、「察舌辨証」「辨舌用薬」の原則を確立した。『舌鑑辨正』では舌診による寒熱鑑別を重視し、まず外感と内傷を区別し、次に舌色、津液、刮苔、点刺などから寒熱の真偽を判断する方法が示された。『臨症験舌法』では「浮胖堅斂によって虚実を分け、乾燥滑潤によって陰陽を分け、黒白青黄によって臓腑を分ける」という三法が提唱され、舌象を虚実・陰陽・臓腑の弁証に結びつけている。
温病・湿熱病においては、舌診が病位、病性、津液の消耗、邪気の深浅、予後を判断する重要な手段とされる。舌紅・黄膩苔・厚苔は湿熱を示唆するが、湿と熱の比重によって湿重於熱、熱重於湿、湿熱並重に分類される。白厚苔で粉を積んだような積粉苔は、湿濁内盛や邪入膜原を示すとされる。一方、王孟英は「白苔は必ずしも寒証ではない」「紅絳舌でも潤沢であれば痰飲が存在し得る」「黒苔にも陰虚によるものがある」と指摘し、舌色のみから寒熱を断定することを戒めた。また、石寿棠は舌中央の一本の紅線を陰虚、一本の白苔を痰飲の徴候とし、脾胃湿熱が強い患者でも発病時にはかえって舌苔が薄くなる場合があると述べている。
本論文は、舌診を単なる舌色や舌苔の分類ではなく、臓腑・経絡・気血津液・寒熱虚実・病勢の変化を総合的に評価する動的な診断法として位置づけている。特に、白苔を寒証、紅舌を熱証、黒苔を実熱証と機械的に判断せず、舌質と舌苔の組み合わせ、潤燥、厚薄、形態、全身症状を総合して弁証する重要性が強調されている。具体的な方剤として小柴胡湯証に関連する9種類の舌象が紹介されているが、方剤の構成生薬および用量についての記載はない。また、本研究は古代文献に関する研究成果の総説であり、個々の舌象の診断精度や治療効果を直接検証した臨床試験ではない。(彭鑫ら、2025年)
中医学の舌診を客観化するための現代技術と、その臨床応用について検討した総説である。従来の舌診は医師の経験や主観に依存する部分が大きかったが、近年はデジタル画像解析、三次元画像再構成、赤外線サーモグラフィー、分光分析、ゲノム解析、プロテオミクス、微生物叢解析、メタボロミクスなどが導入され、舌色、舌苔、舌形、舌面温度、微生物構成、分子生物学的特徴の定量化が進められている。三次元画像技術では舌裂紋の深さや点刺の高さを測定でき、光格子投影を用いた方法では測定誤差±0.1mm以内が報告された。赤外線画像解析では、陰虚証は舌尖・舌前部の温度が高く、陽虚証は低温を示し、気滞血瘀証でも舌温低下が認められた。
舌苔の形成機序については、舌粘膜上皮細胞の増殖・脱落、アポトーシス関連遺伝子、蛋白質発現、口腔微生物叢、代謝産物などの関与が研究されている。舌苔の厚薄は上皮細胞のアポトーシス関連遺伝子の発現と関連し、異常薄苔、厚苔、剥苔では蛋白質組成の違いが報告されている。また、黄苔や黄厚膩苔などの湿熱証に特徴的な舌象には、舌苔微生物叢の構成変化が関与する可能性が示されている。これらの研究は、舌苔を単なる胃気や津液の反映として捉えるだけでなく、上皮細胞の代謝、微生物叢、局所炎症などの生物学的現象として理解する手掛かりとなっている。
臨床応用では、慢性胃炎患者の舌苔色調と胃粘膜びらん・慢性炎症・胆汁逆流との関連、胃食道逆流症の人工知能による舌象識別、慢性胃炎や上部消化管前癌病変における舌苔微生物叢の変化などが報告されている。糖尿病性腎症では、肝腎陰虚証は紅舌・黄苔、脾腎陽虚証は淡白舌・白苔、気陰両虚証はその中間的特徴を示した。冠動脈疾患では舌色・舌苔のRGB値や高光スペクトル解析による病態識別が試みられ、COPDでは特定の舌苔細菌が潜在的な指標として報告された。さらに、胃癌では舌画像解析、舌苔微生物解析、機械学習を組み合わせた多施設前向き研究が行われ、胃癌スクリーニングへの応用可能性が示された。ただし、これらは主に関連性や識別性能を検討した研究であり、舌診のみで各疾患を確定診断できることを示すものではない。
舌診の客観化は、従来の寒熱虚実・臓腑弁証を数値化し、その生物学的背景を解明する方向へ発展している。しかし、撮影条件、照明、機器、舌苔採取部位、分析方法の標準化が不十分であり、小規模・単施設研究が多く、異なる研究間でデータを比較することが難しい。今後は大規模多施設研究、共通データベースの構築、画像解析とオミクス解析の統合、人工知能による多面的な舌象評価が必要とされる。本論文は診断技術の研究を中心とした総説であり、具体的な治療方剤、構成生薬および用量についての記載はない。(張月林ら、2024年)
中医学における舌診の客観化・標準化に関する研究進展を総説し、舌象画像の採集、前処理、人工知能による解析技術、および各種疾患への臨床応用を検討したものである。舌診は舌質、舌苔、舌形、舌態、舌下絡脈などから臓腑、気血、陰陽、津液の状態を判断する重要な診察法であるが、従来は診察者の経験や照明条件などに左右され、客観性や再現性に課題があった。近年はデジタル画像処理、機械学習、深層学習の導入によって、舌象を定量的に評価する研究が進展している。
舌象画像の採集では、自然光に近いCIE標準光源D65を使用し、照明、撮影距離、撮影機器などを一定にすることが重要とされる。画像解析では、色彩補正、舌体領域の抽出、舌質と舌苔の分離を行った後、RGB、HSV、Labなどの色空間を用いて舌色、苔色、苔厚などを定量化する。舌体抽出には従来の閾値法や輪郭モデルに加え、畳み込みニューラルネットワークなどの深層学習が応用され、解析精度が向上している。また、舌質と舌苔の分離には領域分割法、クラスタリング、光スペクトル解析などが用いられ、舌苔の色調や厚さによる反射スペクトルの違いも報告されている。ただし、舌色や苔色に比べ、舌苔の潤燥・腐膩、舌形、舌態などの客観的解析は十分に進んでいない。
臨床応用では、呼吸器疾患として肺癌224例の舌脈象解析、肺結節210例と健康者35例の比較研究が紹介され、舌象パラメータが中医証型や肺結節の画像所見によって異なることが報告されている。循環器疾患では、頸動脈硬化症、高血圧症、冠動脈疾患において舌色や舌象画像の特徴量と病態との関連が検討され、高血圧症の陰虚証では陰虚の程度に伴う舌象パラメータの変化が認められた。消化器疾患では、肝線維化120例、慢性萎縮性胃炎の脾虚気滞証、潰瘍性大腸炎などを対象に舌象の定量評価が行われ、弁証や治療効果判定への応用可能性が示された。
腎疾患では、慢性腎不全患者の舌象をCKD病期別に解析した研究において、虚証に湿濁を伴う患者では、他群と比較して舌色・苔色が淡白となり、舌苔が厚くなる傾向が認められた。また、糖尿病性腎症では中医証型によって舌色・苔色のRGB値、明度などに差が認められた。内分泌疾患では、2型糖尿病患者の舌色の彩度とHbA1cとの関連、舌象パラメータとインスリン抵抗性との関連が報告され、糖脂質代謝異常315例の研究では、舌象の違いが中医体質の違いと関連することが示された。さらに、貧血性疾患976例では舌象と血液・骨髄所見との関連が検討され、アトピー性皮膚炎でも中医証型による舌象画像パラメータの差が報告されている。
著者らは、舌診のデジタル化が中医証候の客観的評価、疾患の診断補助、治療効果の判定、予後予測などに応用できる可能性を指摘している。一方、舌象の統一的な評価基準や標準化された画像データベースが不足しており、研究対象疾患や症例数にも偏りがあることから、今後は撮影条件と解析方法の標準化、大規模な臨床データの蓄積、多施設での検証が必要とされる。なお、本論文は舌診の診断技術に関する総説であり、具体的な治療方剤、生薬構成、投与量についての記載はない。(2024年、張婷)
遺伝子、蛋白質、代謝物、微生物叢などの多次元オミクス技術を用いて、舌質・舌苔の形成機序と中医証候との関連を検討した研究を総括したものである。舌苔の形成には舌粘膜上皮細胞の増殖、角化、脱落、アポトーシスが関与し、唾液中の表皮成長因子(EGF)はその受容体の発現と上皮細胞の角化を促進して舌苔を厚くする。TGF-β3、Ⅲ型コラーゲンα鎖遺伝子、Fas遺伝子、E-cadherinなども舌苔の厚薄と関連する。小児の厚膩苔ではアポトーシス抑制因子Bcl-2の発現が増加し、花剥苔では反対の変化が認められた。また、慢性胃炎患者では舌苔の厚薄や色調とEGF・EGF受容体の発現との関連が報告されており、舌苔の形成には胃腸機能だけでなく、上皮細胞の増殖と脱落の均衡が重要と考えられる。
代謝組学では、舌苔の厚薄や色調が舌上皮細胞のエネルギー代謝と密接に関連することが示されている。脾虚証では舌苔上皮細胞のコハク酸脱水素酵素(SDH)やグリコーゲン含量が正常者と異なり、虚寒証の薄白苔ではSDH活性が低下する。乳酸脱水素酵素(LDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)、酸性ホスファターゼ(ACP)にも舌苔の色調による差が認められた。さらに、寒湿証の白膩苔と湿熱証の黄膩苔では、正常群と比較してそれぞれ14種類、27種類の有意な差を示す代謝マーカーが検出された。血清IL-17Aにも白苔と黄苔を識別する可能性が報告され、舌苔の色調変化には局所代謝のみならず、全身性の炎症反応が関与することが示唆されている。
微生物組学では、舌苔の厚薄、色調、膩苔の形成が口腔微生物叢の構成と関連することが明らかになりつつある。小児喘息の膩苔では孪生球菌属(Gemella)の定着が関連し、地図舌ではMicrobacterium、Leptospira、Methylotenera、Lactococcusなどの菌属が報告された。2型糖尿病の黄厚膩苔では放線菌門やLeptotrichiaなどに特徴が認められ、胃癌患者では薄白苔、白厚苔、薄黄苔、黄厚苔によって異なる菌群構成が認められた。慢性胃炎では寒証と熱証の舌苔微生物ネットワークに差があり、病態が実熱証から虚寒証へ変化する過程で菌群構成も変動することが報告されている。また、痰湿証を呈する慢性腎不全と冠動脈疾患では、舌苔に共通する5種類の代謝物が検出され、中医学の「異病同証」を微生物代謝の側面から説明できる可能性が示された。
舌苔微生物は局所にとどまらず、胃腸微生物叢や全身代謝とも関連する。胃炎患者では舌苔と胃液の微生物構成に共通性があり、ピロリ菌感染は舌苔と胃内の微生物ネットワークに影響する。胃癌患者では白厚苔と黄厚苔で腸内真菌の多様性に差が認められ、代謝関連脂肪性肝疾患の黄苔では舌苔と腸内に共通する特徴的な菌群が報告された。さらに、舌苔微生物は味覚や食物嗜好、硝酸塩から亜硝酸塩を経由する一酸化窒素(NO)産生にも関与し、舌質の色調と局所循環を結びつける機序として注目されている。
本論文は、舌象が単なる外観上の変化ではなく、上皮細胞の増殖・脱落、代謝酵素活性、炎症性サイトカイン、微生物叢および全身代謝の相互作用によって形成されることを示している。ただし、舌苔微生物の変化が病的舌象の原因なのか結果なのかは明確でなく、痰湿証以外の証候研究も不足している。今後は舌苔と腸内微生物叢を統合した多組学解析により、寒熱虚実などの証候変化を客観的に評価する研究が期待される。本文では玉女煎を用いた動物実験への言及があるが、構成生薬・用量の記載はなく、その他の具体的な治療方剤も提示されていない。(戴詩璇ら、2024年)
機械学習および深層学習を用いた中医舌診の客観化について、特に舌形と舌苔の質的特徴に焦点を当て、画像解析技術の進歩と臨床応用を総説したものである。従来の舌診画像解析は舌色や苔色の定量化が中心であったが、歯痕舌、裂紋舌、点刺舌、胖大舌、痩薄舌、厚苔、薄苔、腐苔、膩苔、剥苔などの複雑な形態的特徴を客観的に識別することは困難であった。近年は畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、ResNet、U-Net、Transformerなどの深層学習技術によって、これらの舌象を自動認識する研究が急速に進展している。
従来の画像解析では、歯痕舌の認識精度は約80%、裂紋舌は82%、舌苔の質感分類は84.5%程度であった。深層学習の導入後、舌体領域の抽出ではRAFF-Netによって平均IoU97.85%、F1スコア97.73%が報告された。裂紋舌の識別では深層学習による領域分割モデルで95.2%、歯痕舌ではResNet34で90.5%、DeepLabV3+とランダムフォレストを組み合わせたモデルで93.0%の精度が得られた。点刺舌ではInception V3を用いたモデルで93.98%、膩苔ではResNet34で約88%の認識精度が報告されている。剥苔については、ResNet34を用いた画像分類モデルで98.9%という高い識別精度が報告されたが、研究数はまだ少なく、剥苔の面積や分布、重症度を定量化する技術は十分に確立されていない。また、舌苔の厚薄、腐膩、潤燥などの識別には、局所的な画像特徴と舌全体の情報を統合する解析が重要とされる。
臨床応用では、糖尿病、脂肪肝、悪性腫瘍、腎疾患などを対象とした研究が紹介されている。糖尿病では、舌象の色彩、形態、質感を解析し、Vision TransformerやResNet50を用いて糖尿病および糖尿病前段階のリスクを予測するモデルが開発されている。脂肪肝では、舌象画像の特徴量とBMIを組み合わせた予測モデルが報告され、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MAFLD)では、舌苔微生物叢、舌象画像、BMI、ALT、ASTなどを統合したXGBoostモデルによって96.39%の診断精度が得られた。また、特発性膜性腎症では舌苔の厚さと臨床検査指標との関連が検討され、大腸癌では舌苔微生物叢の変化、胃癌では舌象画像を用いた深層学習診断モデルの有用性が報告されている。ただし、これらは個別研究で報告された結果であり、舌診単独による疾患診断の確実性を示すものではない。
著者らは、今後の課題として、撮影機器や光源の違いを補正した大規模な標準化舌象データベースの構築、複数の舌象特徴を同時に識別する多ラベル解析、説明可能な人工知能による判定根拠の可視化を挙げている。特に、CNNによる局所的な舌苔・舌質の特徴抽出と、Transformerによる舌全体の特徴解析を組み合わせることが有望とされる。さらに、舌象を人体の巨視的表現型情報として捉え、微生物叢、代謝指標、臨床検査値などの多次元データと統合することで、疾患の発症リスクや中医証候の動的変化を評価する新しい診断体系の構築が期待される。現時点では外部データへの汎化性能や臨床的妥当性の検証が不十分であり、実用化にはさらなる研究が必要である。なお、本論文は舌診の画像解析技術に関する総説であり、具体的な治療方剤、生薬構成、投与量についての記載はない。(2024年、許家佗)
中医舌診における舌形の客観化技術と臨床応用をまとめた総説である。舌形には胖大舌、痩薄舌、歯痕舌、老舌、嫩舌、点刺舌、裂紋舌などが含まれ、舌色や舌苔に比べて外的環境の影響を受けにくく、短期間で変化しにくい特徴がある。胖大舌は水湿や内熱、痩薄舌は虚証、歯痕舌は水湿停滞、老舌は実証、嫩舌は虚証、点刺舌は邪熱、裂紋舌は精気不足や熱による陰津消耗との関連が指摘される。これらの舌形を画像解析によって定量化することで、疾病の進行、証候の変化、治療効果を客観的に評価することが期待されている。
舌形解析では、まず舌体を口唇や口腔周囲から正確に分離する必要があり、Otsu閾値法、Snake法、U-Net、畳み込みニューラルネットワークなどが用いられる。胖大舌と痩薄舌は舌体の面積や厚さ、歯痕舌は舌縁の凹凸・歯痕数・深さ、点刺舌は点刺の位置・数量・面積、裂紋舌は裂紋の位置・数量・長さ・形態を解析する。二次元超音波や三次元画像再構成による舌体形態の測定、深層学習による歯痕舌の分類、改良U-Netによる裂紋領域の抽出などが報告されている。一方、老舌・嫩舌の客観的識別については研究が少ない。臨床用舌診装置では、歯痕指数、裂紋指数、瘀斑指数、胖痩指数に加え、画像のコントラスト、角度方向二次モーメント、エントロピーなどの舌質テクスチャ指標が用いられている。なお、胖痩指数は装置によって数値の方向性が異なるため、装置間で単純に比較することはできない。
臨床研究では、2型糖尿病患者において裂紋舌や歯痕舌を認める場合、糖尿病足の発生頻度が高いことが報告されている。HIV感染症・AIDS患者では歯痕舌、裂紋舌、瘀斑舌が多く、胃腸悪性腫瘍患者では栄養不良の程度と瘀斑指数や歯痕指数との関連が認められた。冠動脈疾患の痰瘀互結証では歯痕、瘀斑、点刺の数量や面積が増加し、舌体も胖大傾向を示した。2型糖尿病の陰虚証、陰陽両虚証、気陰両虚証では裂紋や胖大の指標が高く、高血圧の陰虚証では陰虚の程度が強いほど舌質のテクスチャが粗くなり、角度方向二次モーメントが低下し、エントロピーが上昇した。これらの結果は、舌形の定量的評価が中医証候の鑑別に役立つ可能性を示している。
治療効果の評価では、中・進行期肺癌患者に益気清毒法を施行した研究において、裂紋、舌苔の厚薄、腐膩、潤燥に関する指数が改善した。また、2型糖尿病患者に血糖降下薬と健脾清化方を併用した研究では、舌質のコントラストとエントロピーが低下し、舌表面の質感がより細かく潤沢になった。慢性萎縮性胃炎では、舌形と胆汁逆流、胃腺萎縮、胃粘膜の病理学的変化との関連が報告され、舌形解析が病態評価や予後予測に応用できる可能性が示された。ただし、舌形は年齢、性別、体質、口腔環境、気候などの影響も受けるため、舌形のみで証候や疾患を確定することはできない。著者らは、舌形解析の標準化、三次元動態解析、他の四診情報との統合が今後の重要な課題であると結論づけている。なお、本論文は総説であり、益気清毒法および健脾清化方の具体的な構成生薬と投与量は記載されていない。(2023年、夏雨墨)
中医舌診の客観化技術を用いた臨床研究の進展を総説し、中医体質、循環器疾患、悪性腫瘍、肝疾患、糖尿病、胃疾患における舌象の特徴と臨床指標との関連を検討したものである。従来の舌診は医師の経験や照明条件に左右されるが、デジタル画像解析によって舌色、苔色、舌形、舌苔の厚薄・腐膩、歯痕、裂紋、瘀斑などを定量化することが可能になった。大学生4,817例の調査では、舌体の胖痩とBMI、裂紋・芒刺・舌苔の厚薄や乾燥と中医体質との関連が認められ、410例の研究でも舌色・舌形・苔色と体質分類との有意な関連が報告された。
循環器疾患では、駆出率の保たれた心不全60例において、舌下絡脈の紫暗、暗淡舌、紫暗舌、瘀斑、胖大舌、歯痕舌、厚膩苔などが多く認められた。慢性安定冠動脈疾患150例では、紫舌や厚膩苔を認める患者ほど冠動脈病変が重く、心機能低下や血管内皮機能障害、脂質異常が顕著であった。冠動脈疾患100例の治療前後の比較では、心気虚証で舌苔厚薄指数と歯痕指数、心陰虚証で裂紋指数、痰濁証で腐膩指数が低下した。また、血液透析患者77例では歯痕舌と透析間体重増加率、瘀血舌と血清BNPとの正の相関が認められた。
悪性腫瘍では、胃腸癌化学療法患者161例において、栄養状態が悪いほど瘀斑指数や歯痕指数が高く、舌苔が薄くなる傾向が報告された。湿熱蘊結型大腸癌57例に肠益方加減を投与した研究では、治療後に舌苔厚薄指数が低下し、裂紋指数が上昇した。肺癌207例では舌苔の色調や厚さが病理組織型・病期と関連し、食道癌60例では暗紅舌、厚苔、膩苔が多く、脾腎両虚を本とし、痰湿内蘊、肝鬱気滞、肝腎陰虚などを伴う本虚標実の病機が示された。大腸癌493例でも正常対照群と舌診パラメータに差が認められ、中医証型によって舌象が異なることが報告された。
肝疾患では、慢性B型肝炎において舌苔面積、舌質・苔色、歯痕、点刺、裂紋などの定量指標が臨床症状や肝組織の炎症・線維化と関連した。肝硬変では舌下絡脈の迂曲・紫黒色、厚苔などがビリルビン値や凝固機能、MELDスコアと関連し、病態の重症度を反映する可能性が示された。糖尿病では、血糖上昇に伴い舌色が淡く、舌苔が暗黄色になる傾向が報告され、2型糖尿病では暗紅舌、黄厚膩苔、舌下絡脈の瘀滞が比較的多かった。裂紋指数と空腹時血糖、舌色の彩度と糖化ヘモグロビンとの相関が認められ、舌象パラメータとインスリン抵抗性との関連も報告された。
胃疾患では、慢性胃炎150例において内視鏡所見による舌象の違いが認められ、脾胃湿熱証では舌苔厚薄指数や膩苔指数が高く、湿濁中阻証、脾虚湿阻証でも膩苔指数が高かった。慢性萎縮性胃炎の癌前病変では、軽度腸上皮化生で淡紅舌・歯痕舌・胖嫩舌・膩苔、中等度から高度の腸上皮化生で暗紅舌・裂紋舌・少苔、中等度から高度の異形成で暗紅舌・裂紋舌・花剥苔が特徴的とされた。さらに、舌色や苔色のRGB値が胃粘膜のびらん、慢性炎症、胆汁逆流と関連することも報告された。
著者らは、舌診の客観化が中医体質の判別、疾患の重症度評価、証候分類、治療効果判定に役立つ可能性を示す一方、研究の多くが小規模であり、撮影機器や解析基準の不統一、舌象変化の生物学的機序の解明不足が課題であると指摘している。今後は多施設共同研究による大規模舌象データベースの構築、撮影条件の標準化、人工知能による多次元解析、舌象と代謝・生化学指標との統合が必要とされる。なお、肠益方加減については具体的な構成生薬と投与量の記載はなく、その他の治療方剤についても詳細な生薬構成・用量は示されていない。(2021年、銭鵬)
上部消化管疾患における舌象と胃内視鏡所見、胃粘膜病理所見、ヘリコバクター・ピロリ(HP)感染との関連を検討した研究を総括したものである。中医学では「舌は脾の外候」「苔は胃気の蒸騰によって生じる」とされ、舌象は脾胃の虚実寒熱、気血の盛衰、病邪の深浅を反映すると考えられる。慢性胃炎では、単純な表在性胃炎は淡紅舌・薄白苔が多いのに対し、胃粘膜の充血、びらん、出血が進むと紅舌・紅絳舌・紫暗舌、黄苔・厚苔が増加する。胃粘膜の浮腫では淡白舌、粘膜充血では白厚苔、出血やびらんでは紅絳舌・紫暗舌および黄厚苔が認められやすい。胆汁逆流性胃炎では、軽症例は薄白苔・薄黄苔が多く、逆流が高度になると少苔・無苔・剥苔が増加することが報告されている。
消化性潰瘍では、活動期に紅舌、黄厚苔、黄膩苔、胖大舌、歯痕舌、裂紋舌が多く、治癒期には淡白舌・淡紅舌、薄白苔・薄黄苔が増加する。瘢痕期には淡紅舌・薄白苔が主体となり、舌象の変化が潰瘍の活動性を反映する可能性が示されている。胃食道逆流症では紅舌・暗紅舌、薄黄苔・黄膩苔・白膩苔が多く、食道粘膜の充血や浮腫では淡紅舌・紅舌と薄白苔・薄黄苔、びらんでは暗紅舌・薄黄苔が認められやすい。中医病機として、粘膜充血・浮腫は気鬱化火、びらんは熱盛肉腐・気滞血瘀との関連が論じられている。
慢性萎縮性胃炎および胃癌前病変では、胃粘膜の萎縮、腸上皮化生、異型増生の進行に伴い、暗紅舌・青紫舌、裂紋舌、歯痕舌、舌下絡脈怒張、少苔・花剥苔などが増加する。軽度腸上皮化生では淡紅舌、胖嫩舌、歯痕舌、膩苔が多いが、重度腸上皮化生では暗紅舌・裂紋舌・少苔が増加し、中等度から高度の異型増生では暗紅舌・裂紋舌・花剥苔が認められやすい。一方、別の研究では腸上皮化生の進行に伴って膩苔が増加することも報告されており、舌苔変化には研究間の相違がある。胃癌では早期には正常に近い舌象も多いが、進行期には紫舌・青紫舌、瘀斑舌、舌下絡脈怒張、黄膩苔などが増加する。食道癌でも病期進行に伴い紅舌・紫舌、瘀斑、裂紋舌、黄膩苔が増加し、舌象と腫瘍の進行度との関連が示唆されている。
HP感染では紅舌、黄苔、厚苔、膩苔が多く、メタ解析でも黄苔は白苔より、厚苔は薄苔よりHP感染率が高いことが示されている。HP感染は舌苔微生物叢の構成にも影響し、脾胃湿熱証との関連が指摘されている。除菌治療後には黄膩苔から薄白苔への変化、舌苔の菲薄化、舌下静脈の怒張や瘀血所見の軽減が報告されている。また、慢性非萎縮性胃炎から萎縮性胃炎、胃癌へ進行する過程では、舌色が淡紅から紅、暗紅へ変化し、舌苔は薄苔から厚苔、剥苔、少苔へ移行する傾向が示されている。ただし、これは集団における関連性であり、個々の患者が必ずこの順序で変化することを意味しない。
本論文では、舌象と胃内視鏡所見を組み合わせる「双象診断」が提唱されている。脾胃虚弱証では淡白舌、胃絡瘀血証では紫暗舌、脾胃湿熱証では黄膩苔が典型的であり、胃粘膜の充血・びらん・黄色粘稠胃液などは実証・熱証、粘膜蒼白・皺襞平坦・蠕動低下などは虚証・寒証の判断材料となる。しかし、舌象は他臓器疾患や全身状態の影響も受け、既存研究には小規模・単施設研究や診断基準の不統一が多い。したがって、舌診は内視鏡検査、病理診断、HP検査を代替するものではなく、弁証、病勢評価、治療効果判定を補助する手段として位置づけられる。具体的な治療方剤、構成生薬および用量については記載されていない。(楊閃閃ら、2023年)
中医舌診の代表的古典である『敖氏傷寒金鏡録』と『傷寒舌鑑』について、舌象分類、弁証方法、病機理論、治療方剤を比較検討した文献学的研究である。『敖氏傷寒金鏡録』は1341年に杜清碧が敖継翁の原著を12図から36図に増補したもので、現存する中国最古の舌診専門書とされる。一方、『傷寒舌鑑』は1668年に張登が編纂したもので、白苔29種、黄苔17種、黒苔14種、灰苔11種、紅舌26種、紫舌12種、黴醤色苔3種、藍色苔2種、妊娠傷寒舌6種の計120種類の舌象を収載している。前者は簡潔で臨床応用しやすく、後者は分類が詳細である反面、複雑で実用上の限界があると評価されている。
『敖氏傷寒金鏡録』は臓腑弁証と八綱弁証を中心とし、36種類の舌象のうち臓腑弁証11種、八綱弁証10種、六経弁証2種などが認められる。病機は劉完素の火熱論の影響が強く、紅舌、黒苔、裂紋、紅刺などを火熱・熱毒の盛衰や臓腑間の五行生克によって説明している。治療は清熱攻下法が中心で、治法の分析では22項目に認められ、解表攻下法が7項目、寒証に対する治療は1項目のみであった。収載された24方のうち、理中湯合四逆湯、五苓散を除く22方が寒涼解表または清裏攻下の方剤であり、使用頻度は解毒湯8回、調胃承気湯・大承気湯・涼膈散各7回、益元散5回であった。
具体例として、裏圏舌では舌が淡紅色で中央に紅暈があり、周囲が黒色となる舌象を熱毒内結と捉え、承気湯によって清熱攻下する。また、微黄舌では外邪が陽明に侵入しながら表証も残存する病態と判断し、双解散加解毒湯による表裏双解を行う。この方剤は防風通聖散から薄荷を除いた構成であり、防風、麻黄、荊芥、石膏、滑石、黄芩、山梔子、連翹、桔梗、大黄、芒硝、当帰、芍薬、川芎、白朮、甘草を含む。防風・麻黄・荊芥で疏風解表し、石膏・滑石・黄芩・山梔子・連翹・桔梗で清熱し、大黄・芒硝で瀉熱通便し、当帰・芍薬・川芎で和血し、白朮・甘草で調気する構成である。なお、各生薬の具体的な用量は記載されていない。
『傷寒舌鑑』は六経弁証を中心とし、八綱・臓腑・五行・衛気営血弁証を併用している。特に重要なのは、『傷寒論』で寒証を中心に理解されていた三陰病を、熱証としても捉え直したことである。黒乾短舌を厥陰熱極、灰黒乾刺舌を邪熱結少陰、熟紫老乾舌を熱邪伝入厥陰などと解釈し、三陰病における熱邪の存在を重視した。また、紅舌と温疫・熱毒の関係を明確に示し、紅舌26種類のうち13種類を温病・熱毒と関連づけている。さらに、白苔は寒証だけでなく熱証にも出現するとし、白苔黄辺舌、白苔黒斑舌、白苔黒根舌、白苔如積粉舌などを温疫や熱毒の舌象として位置づけた。この点は、白苔を寒、紅舌を熱と単純に対応させる従来の舌診理論を発展させた重要な見解である。
著者は、両書が舌象から病因病機を推測し、弁証と治法を結びつけた点を高く評価する一方、古典の記載をそのまま現代臨床に適用することには慎重であるべきと指摘している。例えば、『敖氏傷寒金鏡録』では生斑舌に玄参升麻葛根湯や化斑湯を用いるが、重症例では清熱解毒・涼血消斑薬の追加が必要と考えられる。また、虫砕舌を心経実火だけで説明している点について、虚火による場合には大補陰丸による滋陰降火も考慮すべきとしている。黒舌を不治と断定する古典の記述も、現代では絶対視すべきではない。『傷寒舌鑑』についても120種類という細かな分類には臨床上まれな舌象が含まれ、分類を機械的に適用することは適切でない。舌診は単独で判断するのではなく、症状、脈象、病機、治法と総合して評価する必要がある。なお、本論文では複数の方剤が紹介されているが、具体的な生薬構成が明示されているのは双解散加解毒湯であり、その他の方剤の構成生薬および各方剤の投与量は記載されていない。(2021年、程志源)
生化学的研究では、舌苔の厚薄や色調と細胞内酵素活性との関連が報告されている。異常舌苔患者の舌苔中リゾチーム濃度は平均3.62mg/Lで、正常舌苔群の19.7mg/Lより低値を示した。同じ苔色では厚苔は薄苔より酸性ホスファターゼ(ACP)活性が低く、乳酸脱水素酵素(LDH)、リンゴ酸脱水素酵素(MDH)、グルコース6リン酸脱水素酵素などは高値を示す。また、黄苔では白苔よりLDH・MDHが高く、細胞代謝の亢進と黄苔形成との関連が示唆されている。慢性胃炎患者では膩苔群のコハク酸脱水素酵素(SDH)活性が非膩苔群より高く、黄厚膩苔で特に高値を示した。これらの結果から、舌苔の形成にはミトコンドリアを中心とするエネルギー代謝と、リソソームを中心とする細胞分解・脱落機構の均衡が重要と考えられる。
遺伝子・蛋白質の研究では、剥苔でアポトーシス促進遺伝子BaxやFasの発現が増加し、舌上皮細胞のアポトーシスが亢進するのに対し、厚苔ではBaxの発現が低下し、細胞脱落が減少する傾向が報告されている。Bcl-2はアポトーシスを抑制し、Baxとの発現比が細胞の生存と脱落を調節すると考えられる。TGF-β3も舌苔形成に関与するが、剥苔ではBaxの増加とともにTGF-β3の低下が認められ、単純な一方向の調節では説明できない。また、唾液中の表皮成長因子(EGF)は舌上皮細胞の増殖・分化を促進し、慢性胃炎や消化器腫瘍患者では厚苔・黄苔においてEGFおよびEGF受容体の発現増加が報告されている。E-cadherin、ICAM-1、TGF-αなども関与し、低酸素、酸化ストレス、細菌由来リポ多糖はBax、NF-κB、HSP70、COX-2などの経路を介して舌上皮細胞のアポトーシスに影響する。
口腔環境も舌苔形成の重要な調節因子である。咀嚼、会話、唾液分泌による口腔自浄作用は角化上皮の機械的脱落を促進し、禁食や咀嚼減少では厚苔が形成されやすい。原発性肝癌患者では術後に厚膩苔が増加し、術後1日目には一過性の剥苔増加も認められた。喫煙・飲酒も厚苔・膩苔と関連し、口腔内pH、酸素分圧、酸化ストレスなども舌上皮細胞の代謝や脱落に影響する。さらに、舌苔には多様な常在微生物が存在し、脾胃湿熱証の黄膩苔では正常薄白苔より細菌総数が多く、舌苔の重症度と細菌数が正に相関する一方、上皮細胞のアポトーシス指数は低下していた。
微生物叢の構成は、舌苔の外観が同じでも疾患によって異なる。慢性萎縮性胃炎患者と健康者の薄白苔では、主要な菌群構造は類似するものの、優勢菌の存在量に差が認められた。また、生理的黄膩苔と病的黄膩苔では菌群構成が異なり、病的黄膩苔では特有の微生物叢の変化が報告されている。紫斑病性腎炎の気虚血瘀証患児では、白厚苔の微生物多様性が低下し、プレボテラ属やナイセリア属の一部が増加していた。したがって、舌苔の厚薄や色調だけでなく、微生物叢の構成を解析することで、同一舌象に含まれる異なる病態を識別できる可能性がある。
本論文は、舌苔の本質を「舌上皮細胞の増殖・分化とアポトーシス・脱落の動的均衡」と捉え、その均衡を全身代謝、遺伝子・蛋白質、口腔自浄作用、局所環境、微生物叢が調節するという考え方を提示している。特に厚苔・膩苔は細胞増殖や角化の亢進、脱落の遅延、微生物増加と関連し、剥苔はアポトーシス亢進と関連する可能性がある。ただし、これらは主として関連性を示した研究であり、舌象変化を引き起こす詳細な因果機序は未解明である。今後は舌上皮細胞の代謝・アポトーシスと口腔微生物叢を統合した研究が必要とされる。本論文は舌苔の形成機序を中心とした総説であり、具体的な治療方剤、構成生薬および用量の記載はない。(熊明月ら、2020年)
舌苔微生物叢と消化器疾患、呼吸器疾患、心血管疾患、腎疾患、免疫・代謝性疾患との関連を検討した研究を総括したものである。中医学では「苔は胃気の蒸騰によって生じる」とされ、舌苔の厚薄、潤燥、色調、分布は胃気の盛衰や病邪の深浅を反映すると考えられる。口腔には700種類以上の微生物が存在し、舌苔微生物叢は全身疾患の影響を受けて変化する。慢性胃炎では膩苔と非膩苔で菌群構成が異なり、びらん性胃炎では治癒に伴って黄苔が減少する。胃癌では早期に薄白苔が多い一方、進行期には黄膩苔、灰黒苔、花剥苔、鏡面舌が増加する。胃癌患者74例と健康者72例の比較では、胃癌の厚苔群で放線菌属・連鎖球菌属が増加し、健康者に比べてフソバクテリウム属、ナイセリア属、ヘモフィルス属、ポルフィロモナス属が減少した。これらの結果は、胃炎から胃癌への病態変化と舌苔微生物叢の変化との関連を示唆している。
腸管疾患では、下痢型過敏性腸症候群の脾胃湿熱証21例において、正常群より舌苔中のグラム陰性桿菌・球菌が増加し、グラム陽性桿菌・球菌が減少するとともに、菌群密度と多様性が増加した。慢性下痢の脾胃湿熱証25例でも同様の変化が認められ、黄膩苔の形成と腸管機能異常、舌苔微生物叢の変化との関連が示された。口腔微生物やその代謝産物は唾液とともに消化管へ移行する一方、胃食道逆流、嘔吐、噯気などによって消化管内容物が口腔環境に影響するため、舌苔と腸内環境には双方向の関連が存在する可能性がある。
呼吸器疾患では、痰熱壅肺証の咳嗽患者65例を対象とした研究で、黄厚膩苔群は薄黄膩苔群や正常群より舌苔微生物の総密度が高く、黄膩苔が厚いほど菌群の乱れが強いことが報告された。肺癌患者41例では健康者より舌苔が厚く、厚苔群では薄苔群や健康者より微生物の豊富さと多様性が低下していた。特にプレボテラ属が増加し、ナイセリア属、ヘモフィルス属、グラニュリカテラ属、フソバクテリウム属などは健康者で比較的多かった。これらの結果から、厚膩苔の形成は単純な細菌総数の増加だけでなく、疾患ごとに異なる微生物叢の構成変化とも関連すると考えられる。
心血管疾患では、慢性心不全42例の研究において、舌苔中のプレボテラ属、ベイヨネラ属が減少し、ナイセリア属が増加する傾向が報告された。冠動脈疾患の痰濁証では、正常群と比較してバクテロイデス門、プレボテラ科、プレボテラ属などの存在量が増加しており、痰濁証と特定菌群の増殖との関連が示唆されている。腎疾患については研究が少ないものの、家族性腎陽虚証では唾液中の連鎖球菌属、ブドウ球菌属、ペプトストレプトコッカス属などが減少し、黒色色素産生性嫌気性菌やカプノサイトファーガ属が増加していた。さらに、菌群の乱れは腎陽虚証の重症度とも関連していた。
その他の疾患では、関節リウマチの風湿熱鬱証において、赤血球沈降速度(ESR)の変化が舌苔の厚薄および細菌総数と関連していた。肥満成人33例の唾液微生物叢では、細菌の多様性と豊富さが低下し、プレボテラ属、グラニュリカテラ属、ペプトストレプトコッカス属などが増加していた。また、小児80例を出生後から7歳まで追跡した研究では、アレルギー疾患の既往がある児と健康児で唾液微生物叢の構成が異なり、その差は乳児期から認められた。これらは、口腔微生物叢と免疫・代謝機能との関連を示唆している。
本論文は、舌苔微生物叢が消化器疾患だけでなく、呼吸器、心血管、腎臓、免疫・代謝系の疾患とも関連し、舌苔の厚薄や色調には疾患ごとに異なる微生物学的背景が存在することを示している。ただし、舌苔微生物叢の変化が疾患の原因なのか、疾患に伴う二次的変化なのかは明らかでない。また、舌苔微生物叢を用いた診断の感度・特異度や臨床的有用性も十分には確立されていない。今後は微生物ゲノム解析と舌象の客観的評価を組み合わせ、疾患や中医証候に特異的な微生物指標を明らかにする研究が必要とされる。本論文には具体的な治療方剤、構成生薬および用量の記載はない。(李娜ら、2020年)
舌苔の客観的測定に関する研究を、苔色、厚薄、潤燥、腐苔・膩苔の識別および総合評価の観点から整理し、舌診の標準化に向けた課題を検討した総説である。中医学では正常舌苔は胃気の上蒸によって形成され、病的舌苔は邪気の影響を反映すると考えられる。舌苔の客観的評価には、従来の医師による視診に代わり、デジタル画像解析、色彩空間解析、光学測定、機械学習などが応用されている。苔色の測定にはRGB、LCH、Labなどの色彩空間が利用され、白苔、淡黄苔、黄苔、黄褐苔、灰黒苔などを数値的に分類する。冠動脈疾患患者927例の研究では、厚白膩苔、厚白苔、薄白膩苔などの間でRGB値に有意差が認められ、舌苔が白色から黄色、褐色、灰黒色へ変化するにつれてRGB値が低下する傾向が報告された。また、ニューラルネットワークやファジークラスタリングによって、苔色の分布を自動識別する研究も進められている。
舌苔の厚薄については、舌質が透見できる程度、舌苔と舌質の色調差、画像の粗密や周波数特性を利用して定量化する方法が検討されている。舌苔と舌質の色調差が大きいほど厚苔、小さいほど薄苔と判断する方法や、薄苔では画像の質感が比較的粗く、厚苔では細かいという特徴を利用したフーリエ解析が報告されている。潤燥の評価には画像表面の光沢が用いられ、二分光反射モデルによって唾液などによる高輝度領域を抽出し、その面積と輝度から湿潤度を推定する。400例の舌画像を対象とした研究では、潤燥の識別精度は約80%であった。また、光沢領域の相対面積と相対輝度の積を潤燥係数として算出する方法も提案されている。
腐苔・膩苔の評価では、舌苔表面の粒子の大きさ、粗密、配列、画像の粗さなどが重要な指標となる。膩苔は粒子が細かく緻密であり、腐苔は粒子が粗大で、糙苔は乾燥して粗いという特徴を持つ。これらをGaborフィルタ、灰度差分統計、灰度共生行列、分形次元などの画像解析手法によって数値化する研究が行われている。画像の色彩と質感を組み合わせた研究では、裂紋、嫩舌、膩苔の識別において専門医の判断との一致率が90%以上となり、別の研究では腐苔・膩苔の識別正答率が83%、灰度差分統計を用いた舌苔の質感分類では全体の識別率が74%であった。
苔色、厚薄、腐膩を同時に評価する総合的な舌診システムも開発されている。多クラスサポートベクターマシンを用いて300例の舌画像を解析した研究では、専門医の判断との一致率が苔色で98%、厚薄で94%に達した。また、決定木と機械学習を組み合わせた方法では平均識別率93.87%が報告されている。さらに、AdaBoostなどの集成学習、三次元画像再構成、高光谱画像解析、白色光と緑色光を用いた舌質・舌苔分離技術なども研究されている。特に500~600nmの波長領域を利用した高光谱画像解析は、舌質と舌苔の反射特性の差を捉え、両者を客観的に分離する方法として検討されている。
一方、舌苔の客観的測定には三つの重要な課題が残されている。第一に、舌苔の分類基準が統一されておらず、研究によって5種類、8種類、9種類など異なる分類体系が採用されている。第二に、舌苔は飲食、薬物、季節、気候、体質などの影響を受けやすく、画像撮影条件や臨床情報の収集・報告方法を標準化する必要がある。特に黄苔が必ずしも熱証を意味するわけではなく、黄膩苔もすべて湿熱証とは限らない。また、同じ膩苔でも腫瘍患者と非腫瘍患者では画像の質感に差が認められる。第三に、測定機器の精度評価が統一されていない。多くの研究は専門医の視診との一致率を指標としているが、専門医間の判断自体にばらつきがあり、感度・特異度を含む厳密な診断精度の検証も不足している。
本論文は、舌苔の客観化には苔色・厚薄・潤燥・腐膩の各特徴を数値化する技術だけでなく、統一された分類基準、標準化された撮影・報告方法、共通の精度評価体系が不可欠であると結論している。画像解析技術によって専門医の視診と高い一致率を示す研究は存在するものの、臨床で広く認められた標準的な舌診測定機器はまだ確立されていない。本論文は舌苔の測定技術を対象とした総説であり、具体的な治療方剤、構成生薬および用量の記載はない。(許偉明ら、2017年)
舌苔の形成機序を微生態学の観点から検討し、舌苔微生物叢と中医証候、各種疾患および治療効果との関連を総括したものである。中医学では舌苔は脾胃の気を受け、胃津が舌背に上昇して凝集することで形成されると考えられる。舌背には糸状乳頭や微細な溝が多数存在し、温暖・湿潤で栄養に富む環境が微生物の付着と増殖を促進する。正常な薄白苔では舌の自浄作用が保たれ、微生物叢は比較的安定しており、唾液連鎖球菌、糸状菌、ベイヨネラ属、バクテロイデス属などが優勢となる。一方、疾病によって唾液分泌、舌上皮細胞の増殖・剥離、免疫機能が変化すると、菌群密度、多様性、優勢菌の構成が変化し、厚苔や膩苔などの病的舌苔が形成される。
湿熱証の黄膩苔では、舌苔が厚くなるほど細菌密度が増加し、特にグラム陰性球菌・桿菌や双球菌の増加が認められる。口腔内の酸産生菌の増殖による酸性環境が厚苔形成に関与する可能性がある。また、黄膩苔の形成には舌苔微生物叢の変化だけでなく、舌上皮細胞のアポトーシスや剥離の異常も関係する。呼吸器疾患と消化器疾患では、同じ黄膩苔が認められても、その形成が特定の臓器疾患に限定されるわけではなく、微生物叢と舌上皮細胞の状態が重要と考えられる。黒苔には真菌感染が関与する場合があり、剥苔ではカンジダ・アルビカンスの検出率が高いとの報告もある。ただし、これらの菌が舌苔異常の直接原因であるかは十分に解明されていない。
呼吸器疾患では、痰熱壅肺証の咳嗽患者において、薄黄膩苔と黄厚膩苔で舌苔微生物密度が異なり、厚膩苔ほど微生物叢の乱れが強いことが示された。肺癌患者と慢性閉塞性肺疾患患者の厚膩苔では、健康者より細菌総数と舌苔剥離細胞数が増加し、特に慢性閉塞性肺疾患で顕著であった。中医学的には、肺の宣発粛降・通調水道の失調によって津液の輸布が障害され、唾液分泌低下による舌の自浄作用の減弱と、痰湿による細菌・剥離細胞の停滞が厚膩苔形成に関与すると解釈される。
消化器疾患では、慢性胃炎の膩苔群、非膩苔群、健康群の間で舌苔微生物叢の密度と多様性に差が認められた。膩苔にはモラクセラ属に近縁の菌が、非膩苔にはロチア属に近縁の菌が関与する可能性が報告されている。慢性浅表性胃炎では、脾胃湿熱証と脾気虚証で菌群構成が異なり、同じ疾患でも証候によって異なる微生物叢の乱れが生じることが示唆された。幽門螺杆菌については、舌苔から菌の遺伝子を検出した研究がある一方、舌苔への定着を否定的に捉える研究もあり、口腔内の持続感染や胃内再感染への関与については結論が出ていない。下痢型過敏性腸症候群では、脾胃湿熱証の舌苔微生物密度と多様性が健康者や脾虚証より高く、グラム陽性菌が減少し、グラム陰性菌が増加した。脾虚湿盛証では唾液リゾチームなどの抗菌因子の減少が菌群異常に関与する可能性がある。急性膵炎52例では健康者より舌苔細菌総数が少なく、薄苔より厚苔で細菌数と嫌気性菌の割合が高かった。
心血管疾患では、慢性心不全60例の舌苔微生物叢を解析した研究で、健康者と比較してプレボテラ属、ベイヨネラ属が減少し、ナイセリア属が増加していた。また、気陽虚・血瘀・水停証では、気陰虚・血瘀・水停証と比較して連鎖球菌属が減少し、フソバクテリウム属が増加していた。関節リウマチの風湿熱鬱証では、赤血球沈降速度(ESR)が舌上皮細胞のアポトーシス指数と負の相関を示し、舌苔細菌総数とは正の相関を示した。免疫機能の異常によって舌上皮細胞の剥離が抑制され、舌の自浄作用が低下することが菌群増加に関与すると推測されている。萎縮性舌炎では黄色ブドウ球菌、口腔球菌、連鎖球菌、カンジダなどが増加し、唾液分泌低下と微生物叢の乱れが相互に炎症を増悪させる可能性がある。口臭患者では健康者より舌苔細菌の多様性が高く、ソロバクテリウム・ムーレイ、レプトトリキア属、ベイヨネラ・ディスパルなどが関連菌として報告されている。
治療による舌苔微生物叢の変化についても検討されている。脾虚湿盛証の下痢患者に対する健脾滲湿湯加減およびビフィズス菌を含む三種混合生菌製剤の投与では、下痢症状の改善とともに舌苔微生物叢の乱れが軽減し、正常舌象への回復が認められた。また、脾胃湿熱証の黄膩苔患者に対する藿朴夏苓湯加減では、舌苔微生物叢の改善と舌上皮細胞のアポトーシス減少が報告されている。ただし、本論文には健脾滲湿湯加減および藿朴夏苓湯加減の具体的な構成生薬・投与量は記載されていない。
本論文は、舌苔の形成と変化には、舌上皮細胞の増殖・剥離、唾液による自浄作用、局所免疫、微生物叢の構成が複合的に関与し、舌苔微生物叢の解析が中医証候の客観化に役立つ可能性があると結論している。特に、同病異証では異なる菌群構成が認められ、異病同証では類似した微生物叢の乱れが生じるという知見は、弁証論治の微生物学的基盤を検討するうえで重要である。ただし、各研究は小規模な観察研究が中心であり、微生物叢の変化と舌苔形成との因果関係や診断指標としての再現性は今後の検証を要する。(李偉ら、2016年)
中医舌診における舌苔の形成機序を、現代医学の観点から検討した総説である。中医学では、正常な薄白苔は胃気の状態を反映し、病的舌苔は正邪の盛衰や寒熱・虚実を表すと考える。舌苔は主に糸状乳頭の角化上皮細胞、脱落細胞、唾液、食物残渣、細菌などから構成され、舌上皮細胞の増殖・分化と脱落の均衡によって形成される。厚苔・腐苔・膩苔は角化亢進や上皮細胞の脱落遅延、剥苔はアポトーシス亢進と関連すると考えられる。
黄苔・厚苔・膩苔では舌上皮細胞の代謝活性が高く、特に黄苔では白苔より乳酸脱水素酵素(LDH)やリンゴ酸脱水素酵素(MDH)が高値を示し、中医学における黄苔と実熱証の関連を支持する可能性がある。剥苔ではBax・Fasなどのアポトーシス促進遺伝子の発現増加、厚苔では細胞脱落の減少が報告されている。また、脾胃湿熱証の黄膩苔では正常な薄白苔より細菌総数が多く、舌苔の厚膩の程度と細菌数に正の相関が認められた。慢性胃炎では膩苔と細胞エネルギー代謝との関連が示され、舌苔微生物叢も病態によって異なることが報告されている。
著者らは、舌苔が胃気や正邪の状態を反映するという中医理論について、舌上皮細胞の代謝・増殖・脱落、口腔微生物叢、全身の代謝状態との関連から説明できる可能性を指摘している。ただし、剥苔を陰虚、黄膩苔を湿熱、厚苔を邪実と判断する中医弁証と、個々の分子機序との直接的な対応関係はまだ確立されていない。なお、具体的な治療方剤、生薬構成、投与量の記載はない。(2020年、熊明月)
肥満症の中医病機と舌象の関連を検討し、舌診を肥満に伴う健康リスクの早期評価に応用する可能性を論じた総説である。中医学では肥満の主な病機を脾虚湿阻、痰湿内盛、胃熱湿阻、肝鬱気滞、気滞血瘀、脾腎両虚、陰虚内熱などと捉える。特に痰湿の停滞が肥満形成の重要な基盤であり、痰湿・痰熱が長期化すると気機を阻滞し、血瘀を生じると考えられる。
肥満者の舌象では、胖大舌、歯痕舌、白膩苔、厚膩苔、暗紅舌、紫暗舌が特徴的である。胖大舌・歯痕舌は脾虚湿阻や痰湿内盛、厚膩苔は痰湿停滞、暗紅舌・紫暗舌は痰湿・痰熱の長期停滞による血瘀を反映すると考えられる。成人単純性肥満135例の研究では胖大舌が多く、特にBMI30~34.9の群で顕著であり、痰湿内盛証が主体であった。また、過体重・肥満群では暗紅舌、紫暗舌、中等度歯痕舌、厚膩苔の出現率が正常体重群より高かった。2型糖尿病患者ではBMIの増加に伴って苔色が濃くなり、肥満者では舌苔の厚薄・腐膩指数も高い傾向が認められた。
舌下絡脈の異常も重要であり、絡脈の怒張・迂曲・青紫色は気滞血瘀、紫絳色で口苦・身熱・便秘を伴う場合は肝胃鬱熱や痰熱互結を示唆する。治法は前者では行気通絡、後者では清熱解鬱を基本とする。久病によって舌下絡脈が細く短くなり、瘀曲・黒色・網状変化を呈する場合は、絡脈虚損と痰瘀阻絡を考え、通補絡脈・活血通絡を重視する。
著者らは、舌色・舌形・舌苔・舌下絡脈の観察が肥満の寒熱虚実や痰湿・血瘀の判別に役立ち、糖尿病や心血管疾患などの合併症リスクを評価する補助指標となる可能性を指摘している。ただし、舌象のみで将来の発症リスクを予測できることが実証されたわけではない。具体的な治療方剤、生薬構成、投与量の記載はない。(2020年、王河宝)
中医舌診の客観化技術と臨床応用について、近年の研究成果をまとめた総説である。中医学では、舌質は臓腑の気血・陰陽の盛衰、舌苔は胃気や邪気の寒熱・深浅を反映し、舌色、舌形、舌苔、舌下絡脈の観察を弁証論治や予後判断に用いる。近年は画像解析、近赤外分光、高分光画像、機械学習などにより、舌色、歯痕、点刺、瘀点、舌苔の厚薄・潤燥を定量化する研究が進んでいる。
臨床研究では、悪性腫瘍に抑うつ・不安を伴う97例で暗舌・黄苔が多く、気血虚損を本、湿熱・血瘀を標とする本虚標実の病機が示唆された。閉塞性睡眠時無呼吸症候群80例では、重症化に伴って舌苔が薄白苔から薄黄苔、白厚膩苔、黄厚膩苔へ変化し、肥満患者では白厚膩苔・黄膩苔が多かった。慢性心不全54例では舌下絡脈の幅や色調と血液検査指標との関連が認められ、血瘀や血行障害を評価する補助指標となる可能性が示された。また、胸痹520例では胸痛の有無によって舌苔面積、歯痕の面積・数量、瘀斑数に差があり、安定期冠動脈疾患90例では白苔、膩苔、裂紋舌、胖大舌などが多く認められた。
著者らは、舌診の客観化によって湿熱、痰湿、血瘀、気血虚損などの証候を定量的に評価し、病勢や治療効果の判定に役立てる可能性を指摘している。一方、研究対象が少数例で疾患も限定的であり、撮影条件や解析基準の不統一、医師の経験による判断差が課題である。舌診単独での確定診断には限界があり、四診合参を基本としながら客観的指標を活用することが重要とされる。なお、本論文は舌診方法に関する総説であり、具体的な治療方剤、生薬構成、投与量の記載はない。(2020年、馮宇)
中医舌象と糖脂質代謝、心血管疾患、消化器疾患などの臨床検査指標との関連を検討した総説である。中医学では舌象は臓腑の虚実、気血の盛衰、痰湿・血瘀・熱邪の状態を反映すると考える。特に糖尿病では、初期の肺胃熱盛・陰虚内熱に紅舌・裂紋舌が多く、罹病期間が長く合併症を伴う患者では青紫舌が増加する。舌苔の厚さは空腹時血糖・食後血糖と正の相関を示し、裂紋指数は空腹時血糖、舌色の彩度はHbA1cと関連した。
脂質異常症では、白膩苔・黄膩苔は痰濁、暗紅舌・青紫舌・瘀斑は血瘀を反映し、特に中性脂肪の上昇は膩苔、LDLコレステロールの上昇は暗舌・厚苔・血瘀舌象と関連した。高尿酸血症では脾失健運・腎失泄濁による湿濁内停が病機とされ、白厚膩苔・黄厚膩苔が多く、尿酸値の上昇に伴って舌色が紅舌から青紫舌・瘀斑舌へ変化する傾向が報告された。
心血管疾患では、暗紅舌・紫暗舌・瘀斑舌は心脈瘀阻を示唆し、冠動脈病変の進展に伴って淡暗舌が増加した。冠動脈疾患の痰瘀互結証と血瘀証では舌色の画像指標に差があり、気滞血瘀証、痰阻心脈証、気虚血瘀証、気陰両虚証の鑑別にも舌象の定量化が役立つ可能性が示された。また、紫舌・暗舌・瘀斑舌・厚苔は血清BNPの上昇とも関連した。
消化器疾患では、脾胃湿熱証は紅舌・黄膩苔、脾胃虚弱証は淡白舌・薄白苔、胃絡瘀阻証は絳紫舌・黄膩苔が特徴的であった。慢性萎縮性胃炎ではピロリ菌感染例に暗紅舌・紫暗舌・黄膩苔が多く、除菌後には薄白苔へ変化する傾向が認められた。胃潰瘍では炎症活動性と舌苔厚薄指数・腐膩指数が関連し、胃癌では青紫舌とDダイマー高値との関連が報告された。
著者らは、舌診の客観化によって痰湿・血瘀・陰虚・湿熱などの病機を臨床検査指標と結びつけ、弁証や治療効果判定に活用できる可能性を指摘している。ただし、これらは主として相関関係を示す研究であり、舌象のみで疾患や証候を確定することはできない。具体的な治療方剤、生薬構成、投与量の記載はない。(2020年、林彦廷)
中医舌診の情報化技術を用いた証候診断と治療効果判定について、過去15年間の研究をまとめた総説である。舌象は臓腑気血の盛衰や寒熱虚実を反映し、舌色、舌形、舌苔、歯痕、瘀点、舌下絡脈などを定量化することで、従来の主観的な弁証を客観的に評価することを目的としている。
慢性胃炎166例では、淡紅舌、淡白舌、青紫舌、黄苔、剥苔を用いた証候分類の正答率は51.8%であり、脾胃虚弱証73.3%、脾胃湿熱証70.0%、胃絡瘀血証59.1%、胃陰虚証55.0%であった。肺癌207例では、肺腎気虚、痰湿困脾、痰熱壅肺、陰虚内熱の各証候で舌苔の色調・厚薄に差が認められた。慢性胃炎では脾胃湿熱、湿濁中阻、脾胃気虚、肝胃鬱熱、脾虚湿阻などの証候と舌象指標が関連し、冠動脈疾患では舌下絡脈の太さ、長さ、迂曲、色調が虚証・実証・虚実夾雑証の鑑別に役立つ可能性が示された。また、気虚、陰虚、気陰両虚では胖大舌の割合が高かった。
治療効果判定では、気虚、血虚、陰虚、気鬱などの証候に対する中薬治療後、舌質・舌苔の色調や画像指標が変化した。糖尿病110例では、治療有効群で舌根部の色調指標が健康者に近づき、舌全体よりも部位別の評価が治療効果を鋭敏に反映した。更年期症候群170例では、腎陰虚・腎陰陽両虚に対する二仙湯加減の治療後、舌質・舌苔の色調が淡く明るくなり、舌象の変化が治療効果の客観的指標となる可能性が示された。二仙湯加減の具体的な構成生薬・用量は記載されていない。
著者らは、舌象の定量化は中医証候の診断だけでなく、弁証論治による治療効果を客観的に評価する手段として重要と結論づけている。ただし、正常舌象の基準値が未確立であり、証候の経時的変化や四診合参を含めた評価方法の標準化が今後の課題である。(2018年、馬旭翔)
中医舌診の臨床応用を、内科疾患と体質弁識の観点から検討した総説である。舌象は臓腑気血の盛衰、寒熱虚実、痰湿・血瘀の状態を反映し、病勢の変化や治療効果の判定に役立つとされる。
心不全では、急性期に紫暗舌・黄厚膩苔が多く、痰濁血瘀・熱邪を主体とするため益気活血・清熱化痰を基本とし、回復期には気虚血瘀・陰傷が顕著となり益気養陰活血を重視する。COPD急性期では紅舌・黄苔が多く痰熱壅肺を示し、安定期には淡紅舌・白苔が増加して本虚の病機が現れる。小児肺炎の痰熱閉肺証では、治療に伴って黄苔が白苔へ変化し、肺部ラ音も軽減した。
消化器疾患では、胃癌118例の77.1%に瘀血舌象が認められた。慢性下痢120例では、燥湿化滞法による4週間の治療後、白厚膩苔・黄厚膩苔の割合が79.2%から13.3%へ減少した。糖尿病腎症では病期の進行に伴い紅舌から暗紅舌、黄厚膩苔から白厚膩苔へ変化し、熱象の減退と痰湿・血瘀の増悪が示唆された。2型糖尿病では紅舌から紫舌への変化が病期進行と関連し、瘀血舌象を呈する患者ではフィブリノゲンが高値であった。原発性シェーグレン症候群では暗紅舌、黄膩苔、裂紋舌が多く、気陰両虚・血瘀・湿熱の病機が示唆された。
体質弁識では、気虚体質は淡暗舌、肥満傾向では胖大舌・裂紋舌が多く、舌形や舌苔と体質の関連が認められた。一方、正常な淡紅舌・薄白苔が必ずしも平和質を意味するわけではなく、舌象単独で体質を判断することには限界がある。著者らは、舌診が病機の把握、病勢の追跡、治療効果判定、体質弁識に有用である一方、舌象変化の機序解明と客観化が必要と結論づけている。具体的な治療方剤、生薬構成、用量の記載はない。(2015年、洪楽)

