肝は五臓泥棒

まとめ:「肝は五臓之賊」とは、肝の疏泄・蔵血の失調が肝だけに留まらず、気血津液の運行を乱して心・肺・脾・腎へ波及し、多様な疾患を生じさせるという考え方である。偏頭痛では肝鬱・肝火・肝陽上亢・肝血不足に痰瘀などが絡み、慢性の咳や鼻炎では「肝升肺降」、耳鳴や慢性腎臓病では「肝腎同源」の観点から肝を同時に治療する。乾癬でも血熱・血瘀だけでなく肝鬱を病態の根として捉える。つまり、難治性疾患で本来の臓腑だけを治療して改善しない場合、弦脈、情志による増悪、易怒・焦燥、口苦、気滞などがあれば「肝」を介入点として考えることが重要である。
2023年、馬瑞山らは「肝為五臓之賊」の理論から、偏頭痛は肝の疏泄・蔵血失調を中心に、気鬱→化火、気滞→血瘀・痰濁、肝気上逆、肝血不足→脳竅失養、肝陰不足→肝陽上亢など複数の病機で生じると整理している。さらに肝病は心・肺・脾・腎へ波及し、瘀血・痰濁・精血不足を介して頭痛を形成するため、治療は疏肝解鬱、清肝瀉火、平肝潜陽、養血柔肝を基本とする。 On_the_Treatm...Five_Viscera”_M… On_the_Treatm...Five_Viscera”_M…
臨床報告では肝鬱気結に清脳舒鬱湯・開鬱透邪方・疏肝解鬱膠囊(貫葉金絲桃、刺五加)、肝火上炎・瘀血に瀉火止痛湯・清肝化瘀方・清肝活血湯・丹珍頭痛膠囊、肝陽上亢に天麻鈎藤飲加減・頭痛寧膠囊、肝血不足・肝失柔養に養血平肝湯・柔肝愈偏飲・柔肝熄風湯・養血清脳顆粒が用いられている。ただし、疏肝解鬱膠囊以外の各方剤について構成生薬・用量は本論文には記載されていない。 On_the_Treatm...Five_Viscera”_M…
要するに、偏頭痛を単純な「肝陽上亢」とせず、肝鬱・肝火・肝陽・肝血の4系統を見分け、さらに痰・瘀・脾腎との関連を加味することが臨床上のポイントである(2023年、馬瑞山)。
2025年、劉浩翔らは「肝為五臓之賊」を、肝失疏泄による全身の気血失調が他臓へ波及する病態と捉え、肺・腎疾患4例を提示した。肝は一身の気機を疏泄し、肝升肺降、肝腎精血同源という関係から、難治性の肺腎疾患でも肝を同時に治すことが重要としている。 Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L…
久咳例は脾虚肝鬱・痰阻気滞として、柴胡桂枝湯加減(柴胡12g、芦根12g、葛根12g、炒神曲12g、忍冬藤12g、炒山楂12g、大棗12g、酒黄芩9g、清半夏9g、青皮9g、陳皮9g、桂枝9g、炒白芍9g、地竜9g、乾姜9g、生姜9g、党参15g、五味子6g、荊芥穂6g、砂仁6g、細辛3g、生甘草3g)を投与し改善。肺だけを宣降するのではなく、疏肝理気によって肝升肺降を回復させることを治療の核心としている。 Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L… Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L…
鼻鼽例は痰熱阻肺・脾虚肝旺として、柴平湯加減(党参15g、忍冬藤15g、生竜骨15g、生牡蛎15g、柴胡12g、蒼朮12g、白朮12g、青竹茹12g、炒山楂12g、炒神曲12g、芦根12g、葛根12g、酒黄芩9g、清半夏9g、佩蘭9g、青皮9g、陳皮9g、厚朴9g、防風6g、砂仁6g、生甘草3g)を用い、20年来の鼻鼽が改善した。小柴胡湯で疏肝、平胃散で健脾燥湿し、疏肝・宣肺・健脾・清熱化痰を同時に行う構成である。 Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L… Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L…
耳鳴例は腎虚肝鬱・気虚血瘀として、柴胡疏肝散合六味地黄丸加減(柴胡9g、牡丹皮9g、山萸肉9g、赤芍12g、白芍12g、生地黄12g、熟地黄12g、葛根12g、懐牛膝12g、炒杜仲12g、羌活12g、独活12g、茯苓15g、生竜骨15g、生牡蛎15g、磁石30g、砂仁6g、生甘草3g)を使用し、疏肝滋腎・平肝潜陽・通耳益聡を図り治癒した。 Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L… Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L…
腰痛+皮疹例は腎虚肝鬱・湿熱内擾として、党参12g、柴胡12g、蒼朮12g、土茯苓12g、生薏苡仁12g、懐牛膝12g、葛根12g、玄参12g、炒神曲12g、青皮9g、陳皮9g、酒黄芩9g、炒黄柏9g、清半夏9g、白鮮皮9g、知母9g、酒大黄9g、竹葉6g、防風6g、砂仁6g、生甘草3gを用い、疏肝益腎を軸に清熱利湿を併用して腰痛・皮疹とも改善した。 Four_Test_Cas...Five_Viscera”_L…
臨床的には、慢性の咳・鼻炎・耳鳴・腰痛で本臓だけを治して反応が悪く、弦脈、易怒・焦燥、口苦、情志による増悪など肝失疏泄の徴候があれば「肝」を治療に組み込む、というのが本論文の最も使いやすいポイントである(2025年、劉浩翔)。
2024年、宋尚義らは、尋常性乾癬(白疕)は「病発於外、本在於内」であり、その内在病機を肝不和と捉え、「肝為五臓之賊」から調肝柔木法を提唱した。肝の疏泄・蔵血失調により気血不和→肌膚失養・乾燥・瘙痒・鱗屑を生じ、さらに肝鬱が脾・心・肺・腎へ波及して湿、血熱、肺燥、陰虚などを形成すると考察している。 Exploring the... five organs__S… Exploring the... five organs__S…
治療は病期別とし、進行期は血熱、静止期は湿毒瘀を治しながら調肝する。通常の曲池、阿是穴、足三里、肺俞、血海、膈俞に、調肝柔木法として太衝・合谷・期門+肝俞温灸を加える。太衝で疏肝理気、合谷と合わせて気血を調え、期門で清肝火・疏肝気、肝俞との俞募配穴で肝の陰陽を調整する。肝俞の温灸は約10分、週2回程度、鍼治療は留鍼20分、通常週3回としている。 Exploring the... five organs__S…
消退期も治療を終了せず、疏肝斂陰・情志調護による再発予防を重視し、合谷、太衝、足三里、期門を主穴、百会、印堂を配穴とし、太衝から湧泉方向へ透刺して肝腎を同調させる。肝俞を10~15分温灸し、論文では約3か月の継続治療を提案している。 Exploring the... five organs__S…
症例は26歳男性、6年来の尋常性乾癬で肝鬱血熱と辨証。進行期に皮疹への毫火鍼+曲池、足三里、肺俞、血海、膈俞、太衝、合谷、期門+肝俞温灸を行い、3週で皮疹縮小・鱗屑減少、第4週から刺絡抜罐へ変更して皮疹が消退した。その後、合谷、太衝、足三里、期門、百会+肝俞温灸で6週間維持し、約1年後の追跡でも再発を認めなかった。 Exploring the... five organs__S… Exploring the... five organs__S…
臨床的には、乾癬を「血熱・血瘀」だけで処理せず、肝鬱・情志異常を病態の根に置き、活動期は「治血+調肝」、消退期は「調肝+再発予防」へ切り替える点が特徴である。なお本論文は中薬方剤ではなく、鍼灸の治療理論・症例報告である(2024年、宋尚義)
2015年、王耀献らは、慢性腎臓病では従来の「気虚・血瘀・湿熱」だけでなく調肝を重視すべきとし、肝腎は「乙癸同源」で、母子相生・精血互生・同居下焦の関係にあるため、肝失疏泄が腎病を悪化させると論じている。治法を疏肝・柔肝・清肝・平肝の4法に整理し、疏肝には柴胡・青皮・鬱金・香附、柔肝には当帰・白芍・地黄・枸杞子、清肝には黄芩・牡丹皮・梔子・夏枯草、湿熱には茵陳・金銭草・竜胆草・黄連、平肝には天麻・鈎藤・生牡蛎・亀板を挙げている。 Discussion_on...five_viscera'_W… Discussion_on...five_viscera'_W…
高血圧性腎障害は陰虚陽亢+五鬱内阻とし、平肝潜陽・滋補肝腎・理気解鬱を目的に天麻鈎藤飲+越鞠丸加減を使用する。単純に「平肝=降圧」とせず、気・血・痰・火・湿の五鬱を解き、気機を調達することを重視している。 Discussion_on...five_viscera'_W…
糖尿病性腎症は肝胃鬱熱・肝腎陰虚を中心とし、肝火・陽明伏熱が長期に気陰・腎絡を傷害すると考え、柔肝清熱として滋水清肝飲+葛根芩連湯を用いる。痛風性腎症は肝腎湿熱→痰瘀互結として、四妙丸+蒲公英・白花蛇舌草・車前草、後期には丹参・赤芍・陳皮を加える。 Discussion_on...five_viscera'_W…
慢性腎盂腎炎は肝鬱腎虚として、腎の気化だけでなく肝の疏泄が下焦の水液代謝に関与すると考え、疏肝補腎として四逆散+狗脊・川断(続断)・川牛膝・杜仲を用いる。 Discussion_on...five_viscera'_W…
臨床的には、CKDを「腎だけの病」とせず、情志・弦脈・気滞・肝火・湿熱などを認めれば積極的に肝を介入点とするという論文であり、疾患別には「高血圧性腎障害=平肝疏鬱、糖尿病性腎症=柔肝清熱、痛風性腎症=清肝利湿、慢性腎盂腎炎=疏肝補腎」と整理すると使いやすい(2015年、王耀献)。

