抜毛症、爪噛み
まとめ:抜毛症、皮膚むしり、爪噛みなどの身体集中反復行為は、箱庭療法、絵画療法、習慣逆転法、暴露反応妨害法などの心理療法が有効です。
栄養の面からの治療法もあります。
抜毛症の精神病理としては、言いたいことを言えない、内的世界を言語化することが出来ないために、非言語的な「抜毛」という行為に至ると考えられています。
躾が厳しく、口がうるさく、支配性の強い母親に対して反抗が出来ないケースが多いと言われています。
無意識下に存在する攻撃性を表出する治療(箱庭療法、絵画療法など)が有効である場合があります。
髪を引っ張る、皮膚を摘む、爪を噛むなどの身体に焦点を当てた反復行動(BFRB)は、感情調節の困難と関連していると言われています。
DSM-5改訂では,抜毛、皮膚むしり、爪噛み行動など身体を対象とする反復行動を総称する“Body-focused repetitive behaviors (BFRB)”(身体集中反復行動)と呼ばれています。
研究によると、嫌悪感はBFRBや過食症などの衝動的な行動の重要な引き金となることが示唆されています。特に、恥はこれらの行動の前後の重要な感情であると仮定されています。(2012年、Hauazenら)
BFRBに対して習慣逆転法も有効性があることが報告されています。(2020年、Syuyaら)
2017年に井上は、大学生419人にアンケート調査を行い、これらの自傷行為の意味として、①心理的苦痛に打ち克つために身体的苦痛を与える271人(64.7%)、②感情をコントロールする245人(58.5%)、③怒りを表す236人(56.3%)の順に多いが、それ以外の理由としては「周りの人に気づいてもらいたい」「誰かに注目してほしい」「周囲の人にかまってほしい」「自分の痛みを周りにアピールして心配してほしいから」など「他者を支配する」と思われるもの、「生きている自覚を得るため」「痛みを感じることで生きていることを実感するため」など「無感覚に克つため」と思われるもの、「形にならない感情を自分にぶつける」「ストレス発散」「すっきりする」「落ち着く」「現実逃避」「楽しいから」「自己満足」「快感?」など「感情をコントロールする」と思われるもの、「自身に起きた事象についてより深く記憶するために」「その時のことを忘れないため」など「心理的苦痛に打ち克つために身体的苦痛を与える」という回答もあったが、「なんとなく」「くせ」「無意識」「気がついたらしている」など、自傷行為の意味の意識化や理由付けを避け無意味なものとする記述も複数みられたことを報告しました。
1998年にFavazzaらは、自傷を以下の3つのカテゴリーに分類しました。①重症型自傷(majorself-injury):統合失調症や急性中毒性精神病における幻覚・妄想の影響下で行われる眼球摘出や去勢などの重篤な自傷、
②常同型自傷(stereotypical self-injury):精神遅滞や発達障害でみられる叩頭や抜毛などの常同的な自傷、
③表層型/中等症自傷(superficial/moderate selfinjury):心理的不快を軽減するために身体表層に損傷を加える非致死的な自傷。そして、表層型/中等症自傷は、強迫性自傷と衝動性自傷に分類されます。(1995年、Favazzaら)
衝動的自傷は、BPD、外傷後ストレス障害、解離性障害などに併発することが多く、緊張の緩和、解離の減少、怒りの抑制を目的とした対処行動ととらえられています。
抜毛・爪かみ・皮膚をかきむしる行為などを強迫性自傷と分類して、行為に先立つ明らかな怒り・攻撃性の自覚を欠き、儀式的に日に何度も反復されるのが特徴であり、強迫性障害との関連も推測されていると考察しています。