進行性核上性麻痺

進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy )は、1964年にSteeleらによって最初に報告された現代病で、大脳基底核 、脳幹、小脳といった部位の神経細胞が減少する疾患です。転びやすくなったり、下方を見ることがしにくい、しゃべりにくい、飲み込みにくいといった症状がみられる疾患です。

①垂直性核上性注視麻痺(上下、特に下向きの随意的眼球運動が障害され、下方をみることが困難になります。)、②初期から転倒を伴う姿勢保持障害(バランスを崩したときに手で防御するという反応が起きず、顔面や頭部に外傷を負ったりします。)、③レボドパ製剤の効果の乏しいパーキンソン症状が大きな特徴で、その他には純粋無動症、進行性非流動性失語、大脳基底核症候群(しゃべりにくい、飲み込みにくい)、小脳萎縮を認めない小脳性運動失調、非運動症状(うつ(60%)、無関心(58%)、健忘、不眠)などが認められます。

介護保険では、パーキンソン病と進行性核上性麻痺と大脳皮質基底変性症の3疾患がパーキンソン病関連疾患と定義されています。

詳しい診断ガイドライン(2020)が出ています。

神経病理学的特徴としては、脳へのタウ蛋白の蓄積があり、臨床表現型はタウ病理の分布によって変わってきます。

進行性核上性麻痺患者61人に12ヶ月間コエンザイムQ10を投与しましたが、有意に改善しませんでした。脱落率が41%と高く、進行性核上性麻痺患者で臨床試験を実施することの難しさも指摘されています。(2016年、Apetauerovaら

進行性核上性麻痺の患者群の食生活の分析では、果物を食べる頻度が少ないことが指摘されています。その他に進行性核上性麻痺と職業、殺虫剤の使用、ガーデニング、アルコール消費、喫煙習慣、抗炎症剤の使用との間に関連性は見られませんでした。(2009年、Vidalら

金属、殺虫剤、有機溶剤、その他の化学物質への過去の曝露との因果関係は認めませんでしたが、井戸水を飲む年数が長いことは、進行性核上性麻痺の危険因子であることが報告されています。(2016年、Litvanら

進行性核上性麻痺では、血清ホモシステインと尿中メチルマロン酸が上昇していることが報告されています。(2010年、Levinら

メチルマロン酸に結合したCoAであるメチルマロニルCoAは、メチルマロニルCoAムターゼによりスクシニルCoAに変化する。この反応でビタミンB12が補酵素として必要とされる。このようにしてメチルマロン酸はクエン酸回路に入り、補充反応の一端を担うことになる。

血清および血漿中の総ホモシステイン の濃度は、葉酸およびコバラミン欠乏症の両方で上昇しますが、血清、血漿、または尿中のメチルマロン酸 は、コバラミン機能の特異的マーカーです。両方の代謝物を組み合わせて測定することは、これらの欠乏状態の診断とフォローアップに役立ちます。

工業用金属による環境汚染が深刻な北フランス(下図の緑色)で、進行性核上性麻痺のクラスターが特定されています。(2015年、Caparros-Lefebvreら

カリブ海フランス領西インド諸島のグアドループで、Caparros-Lefebvre は、進行性核上性麻痺と同様の臨床的および組織学的特徴を持つ多くの患者を特定しており、食事や環境要因と進行性核上性麻痺の関連が指摘されています。(2002年、Steeleら)グアムでも同様の報告があります。(2008年、Golbe

これらの地域(オレンジ色)では、南国果物のバンレイシ科の果物の消費量が多いことと関連が指摘されています。(2021年、Parkら

進行性核上性麻痺の重症度が高いほど、除脂肪体重と筋肉量が減少することが指摘されています。(2022年、Picciloら

高血圧と進行性核上性麻痺のリスクの増加と関連していることが報告されています。(2019年、Rabadiaら

食事(バンレイシ科の果物)、金属(鉛、ヒ素、クロム、ニッケル)、井戸水、および高血圧が進行性核上性麻痺のリスクの増加と関連していることが総括して、発症仮説を提唱しています。(2021年、Parkら

進行性核上性麻痺の運動症状に対して、小脳rTMSの有効性が指摘されています。(2019年、Daleら

進行性核上性麻痺脳の動眼神経における鉄蓄積が報告されています。(2021年、Leeら

進行性核上性麻痺における眼球運動異常と睡眠障害との関連性が指摘されています。(2022年、Boiniら

退役軍人を対象とした調査で進行性核上性麻痺と銃器には正の関連があり、鉛の病因的役割の可能性を示唆しています。(2018年、Kelleyら

進行性核上性麻痺では、自覚的な便秘は25%ですが、客観的結腸通過時間の有意な延長が報告されています。(2021年、Doiら

進行性核上性麻痺では、夜も昼も眠れない重度の睡眠障害を起こすことが報告されています。(2017年、Walsh