多系統萎縮症の漢方治療|論文

多系統萎縮症(MSA)の中医治療では、腎虚・腎精不足・髄海失養を根本病機とし、進行に伴って脾腎陽虚、気血不足、痰湿・血瘀などが加わる「本虚標実」と捉える報告が多い。治療の中心は補腎填精・温陽益髄・健脳で、地黄飲子や温腎健脳方を基本に、熟地黄、山茱萸、肉蓯蓉、巴戟天、附子、肉桂、鹿角、黄耆、楮実子、菟絲子、枸杞子、杜仲、牛膝などが頻用され、痰湿には半夏・茯苓・石菖蒲、血瘀には川芎・赤芍・丹参などを加える。

臨床研究では、運動失調やパーキンソニズムそのものへの効果は限定的である一方、起立性低血圧・失神、尿頻・夜間頻尿、便秘、発汗異常、睡眠障害、疲労などの非運動症状の改善が比較的多く報告されている。特に起立性低血圧には、黄耆・人参・附子・肉桂・鹿角・升麻などによる益気昇陽・温腎助陽が重視される。総じて、MSAの漢方治療は**「腎を補い髄を養うことを本とし、痰・瘀・湿を随証で除く」**ことが基本戦略と考えられる

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では「喑痱・顫証・痿証・眩暈」などに属し、肝・脾・腎の虚を本、痰濁・瘀毒を標とする本虚標実の病態と捉え、脳髄失養に痰瘀が絡み「伏毒」を形成すると考える。治療は扶正補虚固本・化痰祛濁・逐瘀解毒を基本とし、地黄飲子(熟地黄、山茱萸、肉蓯蓉、巴戟天、制附子、肉桂、麦冬、五味子、石斛、石菖蒲、遠志、茯神、薄荷、生姜、大棗)を用い、歩行障害には木瓜・伸筋草・葛根、筋骨無力には杜仲・桑寄生・懐牛膝・千年健・続断などを加える。痰濁には半夏・陳皮・枳実、痰熱毒には知母・黄柏・桔梗・蒲公英・土茯苓・玄参を用い、肝腎虚・肝陽上亢・瘀毒には天麻鈎藤飲加減を用いる。症例ではMSA-Cに対し黄耆・党参・鶏血藤・杜仲・黄精・麦冬・牛膝・桑寄生・当帰・亀甲・肉蓯蓉・石斛・山茱萸・五味子・知母・川芎・補骨脂・天麻・玄参・覆盆子・牡丹皮・黄芩・益智仁・火麻仁・女貞子・墨旱蓮・沙参・白果仁などを用い、行動遅緩や睡眠、遺尿などの改善が報告された。(2025, 王詩航)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では「痿病・喑痱」などに属し、本論文では肝腎不足、奇経八脈空虚を発症の前提とし、「正虚積損」を核心病機と捉える。病変は跷脈・督脈・任脈・衝脈から始まり、進行とともに多経へ波及するとし、督脈病損では運動障害・振戦・動作緩慢、任脈では嚥下障害・構音障害・排尿障害、衝脈では起立性・食後低血圧、跷脈では運動障害やREM睡眠行動障害などとの関連を論じている。治療は**「扶正去積」「通補法」を基本とし、督脈病変には鹿茸片、枸杞子、狗脊、鹿衔草、韭菜子、遠志**、任脈病変には亀甲、制何首烏、山茱萸、尿失禁には金桜子、鎖陽、衝脈病変には紅参、黒順片、熟地黄、五味子、肉桂、乾姜、跷脈病変には楮実子、杜仲、肉蓯蓉、巴戟天、筋脈拘急には海風藤、豨薟草、帯脈病変には白朮、山薬、茯苓、独活、維脈病変には桂枝、白芍、炙甘草、防風を用いる。痰・瘀・毒などの積邪に対する攻邪は補助的に行い、過度の攻伐を避け、針灸・導引なども併用するという治療体系を提示している。(2025, 趙迪)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では「骨繇・喑痱」などに属し、本論文では病位を脳、根本を腎とし、「陽化気」の欠乏と「陰成形」の不足を核心病機、陰陽両虚を病勢進行の重要因子と捉える。腎精不足により脳髄が充養されず、運動緩慢・筋強剛・振戦・小脳性運動失調などが生じ、腎陽の気化・固摂失調により尿頻・尿失禁・起立性低血圧などを呈すると考え、治療は温補腎陽・益精填髄、陰陽双補を基本とする。

中心となる**温腎健脳方(肉桂、制附子、巴戟天、鹿角、熟地黄、亀甲、山茱萸、五味子、菟絲子、沙苑子、楮実子)は還少丹・地黄飲子を基礎とし、尿頻・尿失禁には鎖陽・金桜子、起立性低血圧には麻黄、睡眠障害には茯神・霊芝、健忘には益智仁・石菖蒲・遠志、気虚には人参・黄耆、筋緊張亢進・拘攣には木瓜・伸筋草、便秘には当帰・肉蓯蓉・酒大黄、水腫には沢蘭・沢瀉を加える。症例では地黄飲子合還少丹加減(巴戟天、亀板、熟地黄、酒萸肉、五味子、楮実子、沙苑子、菟絲子、鎖陽、肉桂、淫羊藿、霊芝、黄精、黄耆、人参、刺五加、遠志、石菖蒲)**を用い、下肢無力、頭暈、疲労、排尿障害などの改善と病勢の安定が報告された。(2025, 李秀芳)

多系統萎縮症(MSA)は、腎虚髄空を発病の基礎とし、脳髄・脳神・脳気の障害に加えて、情報伝達や脳機能の調節を担う**「脳気絡」の損傷**が病態形成に重要と考える。腎精不足から脳髄が減少し、絡気が虚して運動情報の伝達が障害されることで歩行不安定・運動緩慢などを生じ、さらに痰濁・瘀血・毒が脳に蓄積して気絡を損傷し、運動・自律神経・認知・情動症状を進行させると論じている。

治療は補腎益髄・養神復意、調補脳気・疏通気絡を基本とし、地黄飲子合還少丹加減(熟地黄、肉蓯蓉、巴戟天、楮実子、沙苑子、亀板、鹿角など)で補腎填精益髄する。痰気が神竅を蒙蔽する場合は石菖蒲、遠志で化痰醒神、瘀阻脳絡には紅景天、川芎、赤芍で活血通絡し、脳気・絡気不足には黄耆、人参、霊芝、黄精、刺五加で補気填絡する。邪滞気絡には紅景天、川芎、天麻、石菖蒲などを用いて疏通し、補腎益髄と通絡を組み合わせて標本兼治を図る。(2024, 張含)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では腎虚髄空を核心病機、陽気不足を重要因子と捉え、腎精不足による髄海失養から歩行不安定・振戦・動作緩慢・排尿障害などが生じ、陽気不足や脾胃虚弱が下肢無力・起立性低血圧などに関与すると考える。治療は「通督養神、引気帰元」を基本とし、督脈を通じて脳腎を連絡して腎精を髄海に上達させ、任脈・腹部募穴で補腎培元・健脾益気を行い、先天と後天を同時に調える。中薬では**地黄飲子加減(熟地黄、山茱萸、山薬、巴戟天、肉蓯蓉、附子、乾姜、肉桂、茯苓、石菖蒲、遠志、薄荷、枳実、厚朴、川牛膝、川芎)を用い、補腎帰元・化痰開竅・通絡を図る。症例では地黄飲子加減(酒萸肉、石菖蒲、制遠志、麦冬、酒蓯蓉、淡附片、熟地黄、牛膝、五味子、茯苓、麩炒枳殻、桔梗、丹参、橘紅、炒僵蚕)**と針刺を併用し、1週間後に歩行不安定、下肢脱力、言語、排尿障害の改善が報告された。(2024, 江倩)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では肝腎虧虚・脾虚失運を基本病機とし、これにより気・血・水湿の運化が障害され、気滞・血瘀・痰凝を生じる本虚標実・虚多実少の病態と捉える。主要証型は肝腎虧虚、脾腎虧虚、痰瘀互阻であり、肝腎虧虚には地黄飲子、六味地黄丸、温腎健脳方、杞菊六味湯、脾腎虧虚には温陽通脈方、八珍湯、金匱腎気丸合地黄飲子、痰瘀互阻には法半夏・南星・天竺黄で化痰通絡し、川芎・赤芍・丹参で活血化瘀するほか、血府逐瘀湯、実脾飲、苓桂朮甘湯などを用いる。

方剤の構成生薬は本論文にはすべて記載されていないため、論文中で明記されたものに限ると、地黄飲子では熟地黄・山薬・黄精・山茱萸、温腎健脳方では山茱萸・巴戟天・杜仲、杞菊六味湯では枸杞子・山茱萸・白菊花、八珍湯加減では砂仁・杜仲・酒蓯蓉などが記載されている。著者らは、中医薬が自律神経障害・認知障害・運動障害の改善に加え、慢性神経炎症、酸化ストレス、細胞死などへの作用を介して脳内微小環境を改善する可能性を指摘する一方、現状は医案・症例報告が中心で、大規模RCTが不足しているとしている。(2024, 劉雲龍)

多系統萎縮症に伴う起立性低血圧(MSA-OH)は、中医学では「眩暈」「厥証」に属し、臓腑虚損・髄海失充を本としながら、「気機昇降失調」を重要病機と捉える。立位では清陽の気が頭部へ上達できず脳髄が失養して眩暈・失神を生じ、臥位では肝の疏泄・蔵血機能が失調して血が脈中に滞留し、臥位高血圧を生じると考える。治療は昇陽育陰法を基本とし、黄耆・人参で補脾益気、鹿角・淫羊藿で温補腎陽、黄耆・麻黄・升麻で昇陽、香附・青皮で疏肝理気、麦冬・熟地黄・当帰・白芍で滋陰養血し、気機の昇降を正常化する。症例では気陰両虚のMSA-OHに対して**昇陽育陰方(黄耆30g、人参10g、麦冬20g、五味子10g、熟地黄15g、当帰20g、肉蓯蓉20g、鹿角30g、蜜麻黄10g、青皮10g、升麻10g、桂枝10g、炒枳実12g)**を投与し、坐位でも失神して終日臥床していた状態から、1週間後には長時間の坐位が可能となり失神が消失し、食欲・便秘も改善した。後頸部の強直に葛根30g・細辛3gを追加している。(2024, 李雨桐)

多系統萎縮症(MSA)の中医治療文献62報・82処方・162味をデータマイニングした結果、病機は**「正虚」を中心とし、証型は脾腎陽虚、肝腎陰虚、腎虚髄虧、気虚下陥、気血虧虚が多く、治療は温補脾腎・滋補肝腎を基本とする。高頻度生薬は熟地黄、黄耆、山茱萸、茯苓、白朮、当帰、山薬、石菖蒲、甘草、党参、牛膝、附子、肉桂などで、核心薬対は熟地黄・山茱萸**であり、益腎填精・充養髄海を図る組み合わせとされた。聚類解析から、**新方1(熟地黄、山茱萸、肉桂、党参、枳殻、葛根)**は温補脾腎・益気養血、**新方2(五味子、肉蓯蓉、杜仲、蜈蚣、全蠍、桑寄生)**は補益肝腎・温陽通絡、**新方3(桃仁、赤芍、蔓荊子、竜骨)**は活血化瘀を中心とする処方として抽出された。熟地黄・山茱萸についてはCASP3、PPARG、PTGS2、NR3C1、SLC6A3などが主要候補標的として抽出され、神経活性リガンド‐受容体相互作用やカルシウムシグナル経路などへの関与がネットワーク薬理学上示唆されたが、著者らは動物・細胞実験による検証が必要としている。(2023, 張靖誉)

多系統萎縮症(MSA)の非運動症状に対し、肝腎虧虚・絡損髄傷、陽気不足・髄海失養を基本病機と捉え、補益肝腎・益精填髄を目的に温腎健脳方を用いた。MSA患者60例を無作為に2群に分け、治療群では従来の抗パーキンソン治療に**温腎健脳方(附子10g、沙苑子15g、黄耆30g、〔PDF解析上1味欠落〕6g、山茱萸10g、鹿角片10g、楮実子12g、杜仲10g、肉蓯蓉12g、巴戟天12g、熟地黄10g)**を追加し6か月治療した。方中の楮実子・沙苑子は益精填髄、山茱萸は滋腎益髄、鹿角片・巴戟天は補腎陽、附子は温陽助火、黄耆は益気、杜仲は強筋骨を目的としている。治療後は尿頻・夜間頻尿、過活動膀胱、疲労、睡眠障害が改善し、特に肝腎不足証でNMSSが改善した。OABSS・PSQIは対照群より有意に低下し、総有効率は治療群26.7%、対照群3.3%であった。一方、全患者を対象としたNMSS総点には有意な改善を認めず、著者らも少数例・客観的指標不足を研究上の限界としている。(2023, 李楠楠ら)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では腎虚を発病の本・全病程を貫く核心病機、湿濁を病状波動・増悪時の重要病理因子と捉える。腎虚により膀胱失司、脳髄・筋脈失養を来して排尿生殖障害、振戦、筋強剛、歩行不安定、共済失調、構音・認知障害などを生じ、さらに腎陽不足による水液代謝障害から湿濁が内生し、湿濁が気機を阻滞して脾腎をさらに損傷するという悪循環を形成する。

治療は補腎・祛湿を核心とし、安定期には補腎固本を優先する。腎陰虚には六味地黄丸・左帰飲、腎陽虚には右帰丸・金匱腎気丸、陰陽両虚には地黄飲子を用い、尿頻・尿失禁には益智仁、沙苑子、金桜子、蓮子肉、芡実、桑螵蛸、起立性低血圧・眩暈には黄耆、党参、当帰、蔓荊子、升麻、振戦・筋強剛には白芍、川牛膝、木瓜、桑寄生を加える。

一方、症状が波動・増悪して湿濁が前景化した時期には祛湿を優先し、寒湿には真武湯・苓桂朮甘湯・実脾飲に茯苓、炒白朮、白豆蔲、沢瀉、藿香、佩蘭、石菖蒲、遠志など、湿熱には三仁湯・四妙散・蚕矢湯に車前子、綿萆薢、猪苓、沢瀉、茵陳、黄芩、黄連、山梔子、葛根、土茯苓、漏芦などを用いる。湿濁が除かれ病状が安定すれば再び補腎固本へ移行し、**「安定期は補腎、波動・増悪期は祛湿」**と病期に応じて扶正と祛邪を使い分けることを提唱している。(2022, 廖倩)

多系統萎縮症(MSA)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)は臨床像や病理は異なるものの、中医学ではいずれも**「腎虚髄減」**を共通の核心病機と捉え、腎精不足・腎陰陽両虚によって脳髄が失養し、運動・認知・排泄などの障害を生じると考える。この共通病機に対して、**地黄飲子(熟地黄、肉蓯蓉、巴戟天、附子、山茱萸、石斛、五味子、官桂、石菖蒲、白茯苓、遠志、麦門冬)**により滋腎陰・補腎陽・填精益髄することで、3疾患を「異病同治」できると論じている。MSAでは地黄飲子加減により夜間頻尿・尿失禁、睡眠障害、発汗障害、皮膚冷感などの非運動症状やQOLの改善が報告されている。現代医学的には、地黄飲子の共通作用として神経炎症の抑制、酸化ストレス軽減、神経細胞保護、ユビキチン‐プロテアソーム系(UPS)の機能調節が考察され、α-synucleinの異常凝集、Aβ沈着、Tau蛋白過リン酸化などの神経毒性蛋白の蓄積抑制との関連も示唆されている。ただし、特にMSAに対する地黄飲子の直接的な薬理・薬物動態研究はまだ不十分で、さらなる基礎・臨床研究が必要とされる。(2022, 王麗曄ら)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では「眩暈・顫証・喑痱・痿病」などに属し、病位は脳を中心として肝・脾・腎と密接に関係し、とくに腎精不足・髄海失充による神機失養、筋脈失栄を重要な病機と捉える。辨証治療では、腎元虧虚に地黄飲子(熟地黄、肉蓯蓉、巴戟天、附子、山茱萸、石斛、五味子、肉桂、石菖蒲、茯苓、遠志、麦門冬)、湿熱浸淫に四妙散(蒼朮、黄柏、牛膝、薏苡仁)、陰虚内熱に虎潜丸(黄柏、知母、熟地黄、亀板、白芍、鎖陽、陳皮、乾姜、虎骨〔現代では使用不可〕)、腎陽虚衰に**右帰丸(熟地黄、山薬、山茱萸、枸杞子、杜仲、菟絲子、鹿角膠、当帰、肉桂、附子)**などを用いる。なお、構成生薬は原論文には記載されていないため、標準的な方剤構成から補記した。

また、脾腎両虚・痰濁内阻には帰脾湯合半夏白朮天麻湯、肝腎不足・痰瘀互阻には地黄飲子合通竅活血湯、心腎両虚・痰瘀阻絡には右帰飲合炙甘草湯が用いられ、行走障害、心悸・気短、眩暈、視力、腰膝酸軟などの改善が報告された。さらに温腎健脳経験方、益髄湯、温陽通脈方などでは、夜間頻尿、起立性低血圧・失神、眩暈、二便障害、下肢無力、発汗異常、睡眠障害などへの改善が報告されているが、これら自擬方の構成生薬は本論文には記載されていない。(2021, 韓藝夢)

多系統萎縮症(MSA)、パーキンソン病(PD)、パーキンソン症候群(PDS)、脊髄小脳失調症(SCA)は異なる疾患であるが、中医学では腎虚髄虧という共通病機を有する「脳髄病」と捉え、補腎填精益髄による「異病同治」が可能と考える。腎虚髄虧型102例に対し6か月間、**滋腎益髄健脳方(熟地黄、山茱萸、黄耆、附子、肉桂、鹿角片、巴戟天、牛膝、杜仲、菟絲子、肉蓯蓉、五味子、枸杞子、楮実子、何首烏、石菖蒲)**を随証加減して投与した。熟地黄・山茱萸・何首烏で滋補腎陰、附子・肉桂・巴戟天・鹿角片で温補腎陽、牛膝・杜仲で強腰膝、楮実子・菟絲子・枸杞子・五味子で填精、黄耆で益気昇陽、肉蓯蓉で補腎潤腸し、補腎填精益髄を図る。MSA43例(MSA-C 30例、MSA-P 13例)では、治療6か月後にMSA-NMSSが34.00±9.84から32.14±9.89へ有意に低下し、非運動症状、とくに睡眠症状・排便障害の改善が顕著であった。一方、UMSARS-I・IIは軽度上昇しており運動症状そのものの改善は認めなかったが、その変化は有意ではなく、著者らは運動症状の進行を一定程度遅延させた可能性を示唆している。(2021, 冉維正)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では「脳髄病」に属し、腎精虧虚を根本として脳髄・脳神・脳気が相互に損傷する病態と捉える。脳髄損傷はMSA発症の基礎で、脳神は脳髄の機能的・外在的表現、脳気は脳髄と脳神を連絡する橋梁とされる。腎精不足による脳髄失養から歩行不安定、運動緩慢、振戦、筋強剛などを生じ、脾腎を中心とした脳気不足から起立性低血圧・失神、尿頻・尿急・尿失禁・残尿、排便障害、性機能障害などが、脳神失司からREM睡眠行動障害、悪夢、睡眠障害、不安・抑うつなどが生じると考える。

治療は補腎益髄を本として脳気・脳神を改善することを基本とし、地黄飲子加減により滋腎益髄・陰陽双補を行う。尿頻・尿失禁など脳気損傷が目立つ場合は鎖陽、金桜子、気短・起立性低血圧・眩暈には人参または紅参、黄耆、REM睡眠行動障害・悪夢など脳神損傷には霊芝、茯神、夜交藤を加える。なお、本論文には地黄飲子の構成生薬そのものは記載されていない。(2020, 田文楊)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では「骨揺・喑痱」などに属し、腎陽虚・髄傷を根本病機と捉える。腎陽不足により津液の温煦・推動が失調して痰湿を生じ、痰湿が長期化すると気虚・血瘀を来し、病理産物が蓄積してさらに髄を損傷すると考える。この病機に対し、温腎助陽・滋腎益髄を目的として地黄飲子を化裁した**温腎健脳方(肉桂5~10g、附子5~10g、熟地黄15~30g、五味子10~15g、巴戟天10~15g、山茱萸10~15g、生黄耆15~30g、楮実子10~20g、鹿角片10~15g、牛膝10~20gなど)**を用いる。尿失禁・尿頻には鎖陽15g、金桜子20g、起立性低血圧には人参10g、不眠・REM睡眠行動障害には霊芝10g、茯神10g、夜交藤15gを加える。MSA40例に3か月投与した結果、UMSARSは有意な改善を認めなかったが、MSA-NMSSは34.50±13.13から32.03±11.75へ低下し、全身症状、頭部症状、排便・消化機能、発汗、熱適応、睡眠、心身症状、認知機能などに改善傾向を認めた。ただしいずれも統計学的有意差はなく、夜間頻尿も4.00±2.75回から3.82±3.02回への変化にとどまり、尿失禁は改善しなかった。著者らは温腎健脳方がMSAの病勢進行抑制と非運動症状改善に有用な可能性を示している。(2020, 田文楊)

多系統萎縮症(MSA)に伴う起立性低血圧(OH)は、中医学では「眩暈・厥証」に属し、虚証、とくに気虚・陽虚を中心病機と捉える。脾・肝・腎の虚損により中気下陥・清陽不昇となり、脳髄・清竅が失養して眩暈・失神を生じ、進行すると気陰両虚、痰濁・瘀血を伴って髄海不足に至ると考える。治療は昇陽挙陥・益気滋陰・温陽健脳を基本とし、補中益気湯(黄耆、党参、白朮、炙甘草、升麻、当帰、陳皮、柴胡)八珍湯(熟地黄、当帰、白芍、川芎、党参、茯苓、白朮、炙甘草)、**地黄飲子(熟地黄、山茱萸、麦門冬、五味子、石斛、肉蓯蓉、巴戟天、制附子、桂枝、薄荷、石菖蒲、遠志、茯苓、大棗、生姜)**などを用い、地黄飲子と補中益気湯の併用に鹿角膠・亀板膠を加える方法も報告されている。

また温陽健脳法として、**温腎健脳経験方(肉桂、附子、鹿角、肉蓯蓉、巴戟天、熟地黄、山茱萸、黄精、補骨脂、黄耆、楮実子、沙苑子、菟絲子、枸杞子、石菖蒲)**を用いて温腎助陽・益精填髄・健脳を図る。報告では治療後、臥位―立位の平均血圧差が収縮期26.76→23.24mmHg、拡張期14.86→11.89mmHgへ有意に縮小した。総説では、MSA-OHの中医治療は補気・温陽・滋陰を中心とするが、症例数が少なく研究規模も小さいため、標準化された証候診断と対照研究が必要としている。(2019, 楊旭)

神経原性起立性低血圧(NOH)は、中医学では脾腎虧虚・髄海不足を中心とする虚証と捉え、補腎益気・填精益髄を治療原則とする。本研究ではNOH 60例〔MSA 40例、PD 17例、PAF 3例〕を無作為化し、**益髄湯(紅参10g、黄耆30g、鹿角霜10g、熟地黄30g、仙鶴草30g、枸杞子10g、当帰15g、麦門冬10g、肉蓯蓉15g、火麻仁10g、熟附片6g、肉桂3g、山茱萸10g、陳皮10g)**群40例とミドドリン群20例で4週間比較した。益髄湯は立位血圧上昇作用ではミドドリンに劣ったものの、臥位血圧への影響が小さく、眩暈、視覚障害、虚弱、疲労、短時間・長時間の立位耐容能を改善し、中医証候では腰膝酸軟、畏寒肢冷、便秘の改善がより良好であった。

さらにMSA 82例を後ろ向きに追跡し、益髄湯を中心とした治療群49例と非益髄湯群33例の生存を解析した。全体の平均生存期間は8.76±0.74年、益髄湯群は8.99±0.79年で、他の治療群と比較した有意な生存期間延長は認めなかったが、長期生存・致残の遅い症例がみられた。死亡原因は肺感染・呼吸不全が54%と最多で、60歳を超える発症は予後不良因子であった。したがって、益髄湯はMSAそのものの生存延長効果は明確ではない一方、NOHに伴う起立不耐・全身症状を改善する可能性が示された。(2018, 張沛然)

多系統萎縮症(MSA)167例の証候を解析した結果、全体の病機は虚多実少・寒多熱少であり、証候要素では痰湿69例、血瘀67例、腎虚61例、腎陽虚42例、腎陰虚36例の順に多かった。虚証では腎虚、とくに腎陽虚を中心とし、実証では痰湿・血瘀が主体で、著者らは腎陽虚をMSAの核心病機、温腎助陽を基本治則としている。

病型別では、MSA-Pは熱証・血虚、MSA-C+P混合型は寒証・気虚・腎虚・血瘀、MSA-Cは脾虚・胃病が比較的多かった。病期が進行すると熱証が減少して寒証・気虚が増え、さらに痰湿・血瘀・毒濁などの邪実も増加するため、後期には腎陽虚を本として痰湿・血瘀を標とする虚実夾雑がより明確になると考察されている。なお、本論文は証候解析研究であり、具体的な方剤・構成生薬は記載されていない。(2017, 王粟実)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では腎虚、とくに腎陽虚を核心証型と捉え、温腎陽・助腎気・健脳益髄を基本治則とする。本研究ではMSA患者105例に**温腎健脳経験方(肉桂6g、附子10g、熟地黄15g、山茱萸10g、五味子10g、巴戟天10g、沙苑子10g、菟絲子10g、補骨脂10g、枸杞子10g、牛膝15g、杜仲10gなど計19味)**を投与し、起立性低血圧には附子・肉桂を増量、尿頻・尿失禁には鎖陽・金桜子、便秘には当帰を加えた。なお、原論文では19味中12味のみ具体的に記載されている。

治療後は非運動症状の改善が中心で、**起立性低血圧または失神50.48%、RBD 28.57%、尿失禁21.90%、夜間頻尿17.14%、排便困難16.20%**に改善を認めた。6か月後には臥位―立位血圧差が収縮期26.76→21.08mmHg、拡張期14.86→11.08mmHgへ縮小し、収縮期差P=0.026、拡張期差P=0.050であった。一方、尿失禁・夜間頻尿は初期には改善したが、12か月では効果が乏しく、運動症状への効果も限定的であった。

著者らは温腎健脳経験方を地黄飲子を基礎に温腎助陽薬を強化した処方とし、肉桂・附子・鹿角・肉蓯蓉・巴戟天・熟地黄・山茱萸・黄精・補骨脂などで腎の陰陽精血を補い、黄耆で補気、楮実子・沙苑子・菟絲子・枸杞子などで健脳益髄、石菖蒲で開竅すると説明している。(2017, 王粟実)

多系統萎縮症(MSA)は、中医学では「喑痱・眩暈・骨揺・顫証」などに属し、肝・脾・腎の虧虚を本、痰濁・瘀血を標とする本虚標実の病態と捉える。211例の証候解析では、肝脾腎虧虚52.6%、痰濁(熱)阻絡29.9%、陰陽両虚・痰瘀互阻17.5%で、若年・病程の短い例では痰濁・痰熱が目立ち、高齢・長期例では虚証および虚実夾雑が中心となる。治療は実証と虚証に大別し、**実証(痰濁中阻・清陽不昇または痰鬱化熱)**には制半夏、枳実、竹茹、烏薬、青皮、藿香、佩蘭、胆南星、茯苓、黄連、栝楼、白朮などで化痰祛濁・清熱昇清する。**虚証(腎陰陽倶虚・髄海失養兼気血不足)**には鹿角膠、熟地黄、枸杞子、当帰、人参、麦門冬、肉蓯蓉、火麻仁、熟附片、肉桂、山茱萸などを用いて補腎填精・温陽益髄・益気養血を図る。虚証MSA 65例に中薬を中心とする中西医結合治療を3か月以上行った結果、**中医証候総有効率70.8%**で、UMSARS-Iの起立症状・転倒・腸管機能および臥位―立位血圧が有意に改善した(P<0.001)。特に起立性低血圧、眩暈・失神、二便障害、下肢無力、腰酸腿冷、発汗異常、失眠・夢囈などの改善が報告されている。(郭改会)