ホットフラッシュを漢方で改善|論文

囲絶経期のホットフラッシュは、中医学では一定時刻に発熱する「潮熱」よりも、不規則に突然生じる熱感・顔面紅潮・発汗を特徴とする「烘熱」として捉えるのが適切で、その基本病機は腎虚、とくに腎陰虚を中心とした陰陽失調と考えられる。さらに肝鬱、心気虚、心腎不交、脾胃気虚、瘀血、相火亢盛などが関与するため、滋陰補腎・清虚熱を基本に、疏肝、益気固表、活血化瘀、調和営衛などを辨証して組み合わせる。治療には当帰六黄湯(当帰、生地黄、熟地黄、黄芩、黄柏、黄連、黄耆)、知柏地黄湯(知母、黄柏、熟地黄、山茱萸、山薬、牡丹皮、茯苓、沢瀉)、**二至丸合二仙湯(女貞子、旱蓮草、仙茅、仙霊脾、当帰、巴戟天、黄柏、知母)**などが用いられる。

女性更年期の汗証は自汗・盗汗を中心とし、その基本病機は腎気の衰退による腎陰・腎陽の失調で、さらに心・肝・脾へ波及し、心気虚による固摂失調、肝腎精血不足と肝失疏泄、脾胃虚弱による衛外不固、情志不暢による気鬱化火などが汗出を助長するとされる。 治療では、陰虚火旺に当帰六黄湯(当帰、生地黄、熟地黄、黄芩、黄柏、黄連、黄耆)合丹梔逍遥散(柴胡、当帰、白芍、白朮、茯苓、炙甘草、牡丹皮、梔子、生姜、薄荷)、腎虚肝鬱・営衛不和に柴胡桂枝竜骨牡蛎湯〔本文表記。構成は柴胡、桂枝、黄芩、半夏、党参または人参、白芍、生姜、大棗、甘草、竜骨、牡蛎などを基本とする処方と推定〕、心腎不交に甘麦大棗湯(甘草、小麦、大棗)加味、営衛不和に桂枝甘草竜骨牡蛎湯(桂枝、甘草、竜骨、牡蛎)、心肝鬱熱に二至丸(女貞子、旱蓮草)・増液湯(玄参、麦門冬、生地黄)合丹梔逍遥散(柴胡、当帰、白芍、白朮、茯苓、炙甘草、牡丹皮、梔子、生姜、薄荷)が用いられている。 また脾腎虚弱・痰湿瘀阻絡には更年止汗湯加減(構成生薬は本総説に記載なし)、陰虚火旺には益坤飲(構成生薬は本総説に記載なし)、肝腎陰虚には坤宝丸(構成生薬は本総説に記載なし)合知柏地黄丸(知母、黄柏、熟地黄、山茱萸、山薬、牡丹皮、茯苓、沢瀉)が報告され、さらに五倍子の臍部貼敷、補腎方足浴、鍼灸、推拿、穴位埋線なども併用される。 総じて、更年期汗証は腎虚を本、陰陽失調を中心病機とし、心・肝・脾の失調や情志異常を兼証として辨証し、滋陰降火、調和営衛、疏肝清熱、健脾益気、固表斂汗などを使い分けることが治療の基本となる(2021, 沈壹)

囲絶経期の潮熱(hot flushes)は、中医古典にいう一定時刻に発する「潮熱」とは異なり、むしろ烘熱に相当する局所性・発作性で不規則な熱感であり、「汗証」「臓躁」「虚労」などの範疇から辨証される。 病機は腎虚を本とし、とくに腎陰虚との関連が強いが、肝気鬱結、心気虚、腎陽損傷による虚火上炎、瘀血、さらに「衝脈隷於陽明」の観点から陽明胃熱の上擾も関与するとされ、滋陰清熱だけでなく、疏肝、益気固汗、引火帰元・温腎密陽、化瘀理気、清陽明熱など多面的な治法が提示されている。 治療では、滋陰養血・清心瀉火に当帰六黄湯(当帰、生地黄、熟地黄、黄芩、黄柏、黄連、黄耆)加減が用いられ30例で総有効率96.67%、平衡陰陽・調気活血に黄耆赤風湯(黄耆、赤芍、防風)加減が用いられ有効率90%、清利肝胆・順気化痰に蒿芩清胆湯(青蒿、黄芩、竹茹、半夏、茯苓、枳殻、陳皮、碧玉散〔滑石、甘草、青黛〕)加減が用いられ総有効率86.67%であった。また滋腎疏肝を目的とする更健湯(構成生薬は本総説に記載なし)、清熱解毒作用をもつ新癀片、滋補肝腎・平衡陰陽・補益気血・生津潤燥を目的とする膏方も報告されている。 非薬物療法では三陰交・関元への電鍼、復溜・陰郄への埋線、耳穴療法、補腎活血推拿、刮痧のほか、五味子・五倍子・何首烏・酸棗仁を等量に粉末として臍部に貼敷する治療で60例中総有効率91.67%が報告されている。 総じて囲絶経期潮熱は腎虚、とくに腎陰虚を中心としながら、肝鬱、心気虚、腎陽虚、瘀血、陽明胃熱などを辨証して治療することが重要であるが、既報の多くは臨床観察であり、前向き大規模研究が不足している(2018, 張鳳茹)。

囲絶経期潮熱は45~55歳頃に多く、突然上半身が紅潮して胸部から頸部・顔面へ烘熱感が広がり、発汗や悪寒を伴うことがあり、中医では「絶経前後諸症」「百合病」「臓躁」などの範疇に属する。基本病機は腎虚による陰陽失調であり、腎陰虚・腎陽虚・腎陰陽両虚を基礎として、肝腎精血不足による相火妄動、血瘀、陽虚による衛気不固・虚火上炎、肝失疏泄、心腎不調などが関与するとされる。 治療では地黄飲子(熟地黄、麦門冬、石菖蒲、山茱萸、茯苓、肉蓯蓉など)による腎陰陽双補、二至丸合二仙湯(仙茅、墨旱蓮、女貞子、当帰、黄柏、知母など)、滋水清肝飲〔六味地黄丸合丹梔逍遥散〕による滋補肝腎・潜陽・清虚熱、知柏地黄湯加減(熟地黄、黄柏、知母、山薬、女貞子、柴胡、当帰、梔子、山茱萸、生地黄、牡丹皮、白朮、沢瀉、茯苓、甘草)による補腎滋陰降火などが報告されている。 また肝腎陰虚型には坤宝丸合知柏地黄丸(酒女貞子、覆盆子、枸杞子、菟絲子、制何首烏、地骨皮、炒酸棗仁、麦門冬、知母、黄柏、熟地黄、山薬、牡丹皮など)が用いられ総有効率97.5%、肾陰虚・陰陽両虚には益腎解鬱寧神方(牡蛎、干地黄、竜骨、黄柏、知母、女貞子、白芍、当帰、白薇、柴胡、肉桂、大棗、生姜、炙甘草)が用いられ、陽虚には炮附子、血瘀には益母草を加え総有効率93.33%であった。 さらに肝腎精血不足には安度更年方(覆盆子、制何首烏、菟絲子、当帰、葛根、牛膝、山茱萸、茯苓、補骨脂、甘草)、肝腎陰虚には調肝益腎湯(熟地黄、山薬、山茱萸、枸杞子、川牛膝、菟絲子、菊花)、腎陰虚には七七滋腎湯が用いられ、鍼灸・電鍼・穴位埋線などの併用も報告されている。 総じて、囲絶経期潮熱は腎虚を本として滋陰補腎・平衡陰陽を中心に、疏肝泄熱、活血化瘀、寧心、固表などを証に応じて組み合わせることが治療の基本とされるが、研究の多くは小規模な臨床観察であり、作用機序や統一した評価基準については今後の検討を要する(2018, 陳欣舒)。

囲絶経期症候群に対する植物由来薬を、植物エストロゲン系と非植物エストロゲン系に分けて有効性・安全性を検討している。植物エストロゲンでは、大豆イソフラボンはエクオールへ代謝されエストロゲン様作用を示し、中国人女性を対象としたRCTでは84~126 mg/日を6か月投与することで潮熱改善が報告されたが、無効とする研究もあり効果はHRTより穏やかで発現も遅い。**紅三葉草(red clover)**は潮熱・寝汗の頻度を減少させる可能性があり、葛根はイソフラボンを含み、特に膣乾燥・性交困難など低エストロゲン症状の改善が報告されている。 銀杏葉にはエストロゲン受容体への作用があり、認知機能や性機能改善の報告がある一方、結果は一定せず、血小板活性化因子抑制作用のためワルファリンやアスピリン併用時には注意を要する。 非植物エストロゲン系では、**黒升麻(black cohosh)**が最も注目され、植物エストロゲンを含まず血中エストロゲンを上昇させない一方、5-HT、内因性オピオイド、GABAなどの中枢神経伝達系を介して潮熱・不安などを改善すると考えられ、RCTではプラセボより有効、また替勃龍(tibolone)と同程度の効果で安全性に優れるとの報告があるが、潮熱に対してプラセボとの差を認めなかった研究もある。 **貫葉連翹(St. John’s wort)**はhyperforinなどを介して5-HT、ドパミン、ノルアドレナリン等の神経伝達を調節し、不安・抑うつ改善が期待されるが、CYP3A4やP糖蛋白を誘導して多数の薬剤濃度を低下させるため相互作用に特に注意を要する。当帰は単独では潮熱に対するプラセボ以上の効果が確認されていないが、洋甘菊との併用では潮熱・睡眠障害改善が報告され、山薬はエビデンスが乏しく、月見草も潮熱の重症度を軽減する可能性はあるものの頻度・持続時間には明確な効果を認めていない。 総じて、囲絶経期症候群に用いられる植物薬のうち、比較的質の高い臨床試験で有効性・安全性が支持されているのは黒升麻が中心であり、大豆イソフラボン、紅三葉草、葛根などには一定の可能性があるものの研究結果は一貫せず、植物薬も薬物相互作用や有害作用を考慮して使用すべきである(2016, 席思思)。

囲絶経期の発作性熱感について、中医学本来の**「潮熱」と「烘熱(こうねつ)」を明確に区別すべきと論じている。潮熱は潮汐のように一定時刻に発熱または熱勢が増強するもので、日晡潮熱・午後潮熱・夜間潮熱などがあり、これに対して烘熱は時間的規則性のない発作性の熱感で、1日数回~1時間に数回起こり、通常は体温上昇を伴わず、胸部より上の熱感・顔面紅潮から発汗へ至ることを特徴とする。このため、一般に「更年期の潮熱」と呼ばれている症状は、中医学的には多くの場合「烘熱」とする方が適切である。 病機も異なり、潮熱では陽明腑実、湿熱、温病の営陰損傷、陰虚火旺などを辨別するのに対し、囲絶経期の烘熱は腎虚、とくに腎陰虚を中心として、陰不潜陽→虚陽外泄→迫津外泄により烘熱・汗出が生じるとされ、肝腎陰虚、心腎不交などのほか、脾胃気虚から陰火が上衝する病機や気血両虚も提示されている。 潮熱の治療では陽明腑実に大承気湯(大黄、厚朴、枳実、芒硝)・小承気湯(大黄、厚朴、枳実)・調胃承気湯(大黄、芒硝、甘草)、陰分虚損には山薬・枸杞子・生地黄・熟地黄・沙参・白芍など、午後潮熱には大柴胡湯(柴胡、黄芩、半夏、生姜、枳実、白芍、大棗、大黄)など、夜熱早涼には青蒿鼈甲湯(青蒿、鼈甲、生地黄、知母、牡丹皮)が挙げられている。 一方、囲絶経期の烘熱では腎陰虚・腎陰陽両虚・肝腎陰虚・心腎不交などを辨証し、腎陰虚には熙坤湯(構成生薬は本論文に記載なし)、腎陰陽両虚には地黄飲子(構成生薬は本論文に記載なし)や二至丸合二仙湯(構成生薬は本論文に記載なし)**などが用いられ、復溜・三陰交・陰郄への埋線、臍部への中薬貼敷、肝俞・腎俞・脾俞への鍼治療も報告されている。 総じて、潮熱=規則的・定時性の発熱、烘熱=不規則な発作性熱感で体温変化を伴わないという区別が重要であり、囲絶経期女性に典型的なhot flashは中医学的には「烘熱」と捉え、腎陰虚を中心に病証結合して辨証論治すべきである(2015, 曹蝶)。