手足の冷えの中医論文

まとめ:中医では手足の冷え(手足厥冷)を、単純な「陽虚=温めればよい」とは考えず、**「不栄(気血・陽気が不足して四肢を温煦できない)」と「不通(気滞・血瘀・痰湿・寒凝などにより陽気や気血が四末まで届かない)」**という二つの病態を中心に辨証する。実際には両者が併存することが多く、陽虚・気血虚弱・血虚寒凝には温陽・益気・養血を行う一方、気滞には疏肝理気、血瘀には活血化瘀、痰湿には化痰利湿を行い、陽気と気血を四末まで通達させることが重要である。したがって治療は、四逆湯・当帰四逆湯などで「補って温める」だけでなく、四逆散による疏肝通陽、血府逐瘀湯による活血祛瘀、痰湿を除く治法などを病機に応じて選択する。特に、全身の畏寒が乏しい、情緒で冷えが変動する、瘀血徴候を伴う、左右差があるといった場合には「不通」を考慮し、過度な温補を避けることがポイントである。

夏永良教授の**「気血通栄」理論に基づく手足厥冷の辨治経験をまとめたもので、核心病機を「不通則冷」と「不栄則冷」に整理している。気滞・血瘀・寒凝・痰瘀などで気血が四末へ達しない「不通」と、気血不足・脾胃虚弱などで四肢を温煦できない「不栄」を区別し、「通・補・調」の三法**を使い分ける。

通法では四逆散、柴胡疏肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝湯、血府逐瘀湯、当帰四逆湯、桃紅四物湯合二陳湯など、補法では当帰黄耆建中湯加鶏血藤・仙鶴草、帰脾湯、八珍湯、十全大補湯、済生腎気丸など、調法では桂枝湯、温経湯、交泰丸、当帰四逆湯、陽和湯、逍遥散などを証に応じて用いる。

症例は23歳男性、四肢不温3年以上。陽気鬱閉・肝気鬱滞と辨証し、四逆散加味〔柴胡9g、炒白芍10g、枳実9g、炙甘草6g、竜骨30g、牡蛎30g、香附10g、川芎9g、焦梔子9g、桂枝6g、蜈蚣1条〕を投与。四肢不温が改善し、その後、鶏血藤・仙鶴草・仙霊脾などを加減して諸症が改善した。

要点:手足の冷えを単純な「陽虚=温補」とせず、気血が「通っているか」「十分に栄養・温煦できているか」をみて、通・補・調を組み合わせる点がこの論文の特徴です。2026, 項嘉煊

手足寒冷症は中医で「厥逆」「手足厥冷」などに属し、その病機は外感寒邪や陽気不足による寒閉と、気機鬱結して陽気が四末に達しない熱鬱に大別され、寒冷をみて一律に温陽するのではなく辨証論治することが重要である。臨床では主に血虚寒凝証、気機鬱結証、気虚証、腎陽虚衰証などに分け、血虚寒凝証には温陽活血・散寒止痛として当帰四逆湯(当帰10g、桂枝10g、細辛3g、白芍10g、通草10g、大棗10g、甘草10g)、気機鬱結証には行気開鬱・疏肝通陽として四逆散(柴胡10g、白芍10g、枳実10g、甘草10g)、気虚証には益気温陽・補中扶正として補中益気湯(黄耆30g、人参10g、炙甘草10g、白朮10g、当帰10g、陳皮10g、升麻10g、柴胡10g)、腎陽虚衰証には温補腎陽として**右帰丸(熟地24g、山薬12g、山茱萸12g、枸杞子10g、杜仲10g、当帰10g、菟絲子10g)**を用いる。また運動、防寒、温水足浴・艾灸、陽池穴の按摩などの日常調護と、証に応じた食療を併用することを推奨している。

年号記載なし、馬淑然

張仲景は『傷寒雑病論』で手足所見を50か所以上記載しており、手足は陰経と陽経が交接し、脾胃から精気の輸布を受ける部位であることから、手足の状態によって脾胃機能および全身の陰陽気血の状態を判断できるとする。手足厥冷の基本病機は**「陰陽気不相順接」であり、陽気虚には四逆湯**、裏熱による熱厥には白虎湯、上熱下寒には麻黄升麻湯(麻黄、升麻、石膏、黄芩、知母、当帰、白芍、天門冬、玉竹、桂枝、乾姜、白朮、茯苓、甘草)、肝気鬱結による気厥には四逆散(柴胡、枳殻、白芍、甘草)、血虚寒凝には当帰四逆湯(当帰、白芍、甘草、大棗、桂枝、細辛、通草)、痰厥には瓜蒂散、水飲による飲厥には茯苓甘草湯(茯苓、甘草、桂枝、生姜)、蛔厥には烏梅丸を用いる。さらに手足温は脾胃の陽熱、陽気来復、陰虚による虚陽浮越などを示し、手足汗出は陽明熱盛腑実または陽明中寒、手足不仁は陽虚寒盛・営衛不和または陰津不足による濡養失調を示すとし、手足所見のみで寒熱虚実を決定せず他の随伴症状と総合して辨証する必要があると論じている。なお、四逆湯・白虎湯・瓜蒂散・烏梅丸などについては本論文中に構成生薬の記載がないため補っていない2016、劉倩倩

李小娟は手足厥冷の病機を**「不栄」と「不通」に求め、陽気不足、陽気不通、陽気不足兼不通の3型に分類し、特に臨床では両者を兼ねる例が多いとする。陽気不足には温陽散寒として四逆湯(附子、乾姜、炙甘草)を基本に肉桂・呉茱萸などを用い、陽気不通には四逆散(柴胡、白芍、枳実、炙甘草)**を基本として、気滞には柴胡・白芍・枳実・甘草・川楝子・鬱金・陳皮、痰凝には半夏・旋覆花・浙貝母・栝楼・竹茹、湿阻には茯苓・猪苓・沢瀉・薏苡仁・通草、血瘀には川芎・丹参・紅花・桃仁・鶏血藤などを加え、行気・化痰・利湿・活血によって陽気を四末へ通達させる。陽気不足兼不通では温陽と通脈を併用し、「陰中求陽」「行気助通」を重視する。症例は35歳女性の3年来の対称性手足厥冷で、陽虚血弱・寒凝気滞と辨証し、**当帰四逆湯合四逆散(当帰20g、白芍20g、桂枝15g、細辛5g、通草15g、柴胡15g、枳実10g、大棗10g、炙甘草10g、川芎10g、鶏血藤30g、黄耆30g)**を投与し、1か月で手足が温まり月経も正常化し、1年間再発を認めなかった。陽気不足があっても全身の畏寒がなく冷えが肘・膝を越えない場合には附子・乾姜などによる過度な温補を避け、陽鬱を解除して陽気を通達させることを重視している。(2016、蘇丹)

本症例は、手足厥冷を単純に「陽虚寒凝」と判断せず、四逆湯証の陽虚肢厥と四逆散証の気滞絡阻を鑑別することが重要とした41歳男性例で、午前9~10時頃から手足が氷冷して手掌・足底に発汗し、夜8時頃に自然軽快する明確な日内変動、指端暗色・腫脹緊張、顔色暗・口唇紫紺、舌絳紅・薄黄苔・脈弦などから、陽虚寒凝ではなく気機鬱滞・脈絡不通・陽気鬱閉・気血不活・痰瘀互結と辨証し、理気通絡・通陽除痹・滌痰化瘀を治法として**枳実散合桑枝飲加減(桑枝18g、豨薟草15g、枳実10g、桂枝10g、海風藤15g、桑葉15g、白芍15g、制香附15g、厚朴10g、白鮮皮15g、皂角刺15g、丹参30g、牡丹皮15g、川芎10g、防風15g、白芷10g、藁本10g、金銭草15g、生地黄15g、山茱萸15g、沢瀉10g、海金沙15g、紫花地丁15g、炒延胡索15g、山薬20g、甘草5g)**を投与した。1週間で手足の氷冷は「冰」から「涼」へ軽減し発汗は消失、その後は気滞・湿阻に防已・檳榔・鬱金、不眠に炒酸棗仁、情緒変動に合歓皮・仏手・黄耆・桔梗・炙升麻、腋窩・陰嚢の湿潤に黄柏・苦参を随証加減し、最終的に手足はほぼ正常な温度となり、発汗も消失して再発を認めなかった。本例は、手足の冷え=陽虚として附子・乾姜などで温補するのではなく、陽気が存在していても気滞・絡阻によって四末へ達しない「陽気鬱閉」が手足厥冷を生じ得ることを示している。

(2015、李静平)

手足冰凉(手足厥冷)は、臓腑機能の虚弱・失調によって生じるとし、腎陽虚衰、脾胃虚寒、肝気鬱結、血虚寒凝の4型に辨証する。腎陽虚衰型は畏寒、神疲気短、下利清穀、夜尿多、舌淡胖・脈沉微などを伴い、補腎助陽・温中散寒として金匱腎気丸、右帰丸、附子理中丸などを用い、脾胃虚寒型は気弱、面色萎黄、食欲不振、消化不良、舌淡・脈弱などを伴い、温中健脾として理中丸、香砂六君子丸、補中益気丸を用いる。肝気鬱結型は抑鬱、ため息、胸脇脹痛、手足厥冷、苔白・脈弦を特徴とし、肝気鬱滞により気血が四末へ達しないため、疏肝解鬱・宣達陽気として四逆散、柴胡疏肝散を用いる。血虚寒凝型は失血や月経異常などを背景に、頭暈、面白、肢麻・疼痛、経量減少・色暗、舌淡瘀紫などを呈し、養血散寒・温通経脈として烏鶏白鳳丸、陽和丸を用いる。また当帰生姜羊肉湯、黄耆羊肉湯、山薬羊肉粥などの食療、心兪・腎兪・気衝・湧泉・足三里・陽池などの按摩、足浴や運動も併用する。なお、本文では各中成薬の構成生薬は記載されていないため補っていない年号記載なし、蒲昭和

四肢逆冷は正常人にもみられる一方、多くの疾患に随伴するため、単純に陽気虚衰・寒邪によるものと捉えず、発症時期、部位、誘因などを詳細に辨証する必要がある。本論文では病機を、陰寒凝滞、熱邪閉鬱、気機鬱結、気血虚弱、陰血不足、血行瘀滞、痰湿停留、風湿痹阻、湿熱残存の9つに分類し、陰寒凝滞には実寒と虚寒があり、熱邪閉鬱では裏熱が深く陽気を四末へ達しさせず、気機鬱結では情志不暢・肝気鬱結によって陽気が四末へ通達できず、気血虚弱・陰血不足では四肢を温煦・濡養できないため冷えを生じるとする。また血瘀・痰湿・風湿・湿熱はいずれも気血運行を阻害して四末への陽気の通達を妨げるため四肢逆冷を生じる。特に、冬季に強い冷えは陽虚・寒凝、夏季や熱とともに増悪する冷えは熱邪閉鬱、情緒緊張で誘発するものは気機鬱結、睡眠後も下肢が温まりにくいものは気血虚弱など、発症様式が病機鑑別に有用であると述べている。さらに左右差は風痰・痰湿・瘀血などによる経絡阻滞、上肢のみは心肺陽気虚衰、下肢のみは脾腎陽気虚衰を考慮する。総じて四肢逆冷は、虚では陽虚・血虚・陰虚、実では気滞・血瘀・寒凝・痰阻・風湿・湿熱鬱滞など多様な病機から生じ、しかも実臨床では単独より複数の病機が相互に錯雑することが多いため、「手足が冷たい=陽虚」とせず具体的な証候から病機を辨別することが重要としている。なお、本論文は病機研究が中心であり、治療方剤・構成生薬は提示されていない。(年号記載なし、陶怡)

身冷畏寒を単純な陽虚とせず病機に応じて治療した4症例で、第1例は感冒後に身冷畏寒・両下肢氷冷・全身を冷風が走る感覚・身体困重・食欲低下・胃痞・悪心・噯気・多唾、白膩苔・弦滑脈を呈し、痰飲閉鬱・陽鬱不伸と辨証して柴胡姜桂湯合達原飲加減(柴胡、桂枝、半夏、陳皮、白芍、藿香、焦山楂、神曲、佩蘭各10g、黄芩・厚朴各6g、檳榔12g、茯苓15g、白豆蔻4g、生姜5片)を投与し、さらに党参・白朮を加えて畏寒が消失した。第2例は産褥中暑後に強い身冷・畏風と発汗不暢が残存した女性を産後気血虚弱・営衛不和と辨証し、桂枝湯加味(桂枝、白芍、白朮、防風、当帰各10g、黄耆15g、甘草4.5g、生姜3片、紅棗5枚)を投与して全身発汗後に身冷が消失した。第3例は人工流産後に畏寒、悪露不尽・悪臭、少腹拒按痛、四肢氷冷、舌辺尖紫点、沈小渋脈を呈した症例を産後瘀血阻滞と辨証し、生化湯加味(当帰、赤芍、白芍、焦山楂各12g、桃仁、柴胡、枳実、党参各10g、川芎6g、炮姜4.5g、甘草4.5g)を投与し、瘀血様組織の排出後に腹痛と畏寒が改善、黄耆・白朮・防風を加えて身冷畏寒が消失した。第4例は分娩時の大量出血後に身冷畏寒、手足厥冷、冷汗、食欲低下、脱毛、面色蒼白、白滑苔・沈小弱脈を呈したSheehan症候群を腎陽虚衰と辨証し、四二五湯加減(当帰・五味子各10g、白芍・熟地黄・仙茅・淫羊藿・菟絲子・巴戟天・覆盆子・枸杞子・党参各12g、黄耆15g、肉桂・川芎各6g)を用い、さらに鹿角膠を加えて改善させ、後期には全鹿丸・亀鹿二仙膠・胎盤粉で調整した。以上から、身冷畏寒・手足厥冷は痰飲による陽鬱、営衛不和、瘀血阻滞、腎陽虚衰など異なる病機から生じるため、単純な温陽ではなく病機を辨別して治療する必要があり、特に腎陽虚衰でも陰血損傷を伴う場合は温燥薬だけに偏らず陰陽をともに補うことが重要とされる。(2000、沈開金)

本症例は、転落による左鎖骨骨折後3週間にわたり手足厥冷が持続し、胸痛、頭痛、心悸、不眠、急躁易怒、夕方の熱感を伴い、舌質黯紅・瘀点、脈渋を呈した症例で、一般的な陽気衰微、陽気鬱阻、血虚受寒、痰濁内阻などによる厥冷ではなく、外傷によって生じた胸中瘀血が気機を阻滞し、陽気が鬱して四肢へ通達できないことが病機と辨証した。化痰・駆虫・解鬱・回陽薬や鍼灸などでは改善せず、活血祛瘀・行気解鬱を治法として**血府逐瘀湯(桃仁12g、紅花9g、当帰9g、生地黄9g、牛膝9g、川芎5g、桔梗5g、赤芍6g、枳殻6g、柴胡3g、甘草3g)を投与したところ、6剤で四肢が温まり諸症状が軽減し、さらに原方を継続して四肢厥冷を含む諸症状が消失、2年間の追跡でも再発を認めなかった。手足厥冷は一般に陽虚・陽鬱・血虚寒凝・痰濁などから論じられるが、本例のように瘀血が気機を阻み、陽気の四末への通達を妨げる「瘀血性厥冷」**も存在し、この場合は温陽ではなく活血祛瘀を本治とし、血府逐瘀湯によって「瘀去れば気行り、陽気が四肢に達する」ことが治療の要点である。(1991、劉鉄山)