夜驚症の中医治療

まとめ:夜驚症の中医学的病機は、営衛失和・陰陽失調・心神不寧を中心に、心火亢盛、痰火擾心、肝胆熱盛、瘀血阻竅、心虚胆怯、心肝血虚、心腎不交、心脾両虚など多彩な証が関与する。治療は調陰陽・和営衛・安神止驚を基本とし、桂枝加竜骨牡蛎湯合甘麦大棗湯(桂枝、白芍、生姜、大棗、炙甘草、竜骨、牡蛎+甘草、小麦、大棗)小柴胡湯(柴胡、黄芩、半夏、人参〔党参〕、生姜、大棗、甘草)補陽還五湯(黄耆、当帰尾、赤芍、川芎、桃仁、紅花、地龍)、**温胆湯(半夏、陳皮、茯苓、枳実、竹茹、甘草、生姜、大棗)**などを基本に、石菖蒲、遠志、鬱金、酸棗仁、夜交藤、柏子仁、竜骨、牡蛎、磁石、珍珠母、鉤藤、天竺黄などを証に応じて加減する。

夜驚症は中医学では「夜啼」に属し、虚実を鑑別して治療する。実証は心火亢盛・痰火上擾・肝胆熱盛・瘀血阻竅、虚証は心虚胆怯・心肝血虚・心腎不交・心脾両虚に分類される。治療は調整陰陽・補虚瀉実・安神止驚・健脳安魂を基本とする。実証では**瀉心湯(大黄、黄連)、導赤散(生地黄、木通、甘草梢、竹葉)、黄連温胆湯(半夏、陳皮、茯苓、枳実、竹茹、甘草、黄連、生姜、大棗)、礞石滾痰丸(青礞石、沈香、黄芩、大黄)、当帰竜薈丸(当帰、竜胆草、蘆薈、青黛、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、大黄、木香、麝香)、竜胆瀉肝湯(竜胆草、黄芩、山梔子、沢瀉、木通、車前子、生地黄、当帰、柴胡、甘草)、血府逐瘀湯(桃仁、紅花、当帰、生地黄、赤芍、川芎、柴胡、枳殻、桔梗、牛膝、甘草)、通竅活血湯(赤芍、川芎、桃仁、紅花、麝香、老葱、生姜、大棗)を、虚証では安神定志丸(人参、茯苓、茯神、遠志、石菖蒲、竜歯)、妙香散(黄耆、山薬、人参、茯神、遠志、桔梗、木香、麝香、朱砂)、温胆湯(半夏、陳皮、茯苓、枳実、竹茹、甘草、生姜、大棗)、四物湯(熟地黄、当帰、白芍、川芎)、補肝湯(当帰、白芍、熟地黄、川芎、酸棗仁、木瓜、甘草など)、交泰丸(黄連、肉桂)、麦味地黄丸(六味地黄丸+麦門冬、五味子)、天王補心丹(生地黄、玄参、天門冬、麦門冬、当帰、丹参、人参、茯苓、遠志、柏子仁、酸棗仁、五味子、桔梗、朱砂)、帰脾湯(黄耆、人参、白朮、茯神、酸棗仁、竜眼肉、遠志、当帰、木香、甘草、生姜、大棗)**を証に応じて使い分ける。また、鍼灸・耳針・七星針・水針・小児推拿も有効な補助療法として紹介されている。(2007, 劉艷驕

毎日・毎週ほぼ同時刻に発作を繰り返す難治性夜驚は《霊枢・営衛生会》の理論から営衛失和が本態であると考え、調和営衛を基本治法とする。基本方は**小柴胡湯(柴胡、黄芩、半夏、人参〔党参〕、生姜、大棗、甘草)**を和解営衛の主方とし、補陽還五湯(黄耆、当帰尾、赤芍、川芎、桃仁、紅花、地龍)で補気活血・化瘀通絡を図る。症状に応じて、石菖蒲、遠志、鬱金で開竅醒脳、金銀花、連翹、山梔子、竹茹、陳皮、川貝母で清熱化痰、丹参、三稜、莪朮、木瓜で活血通絡、麦門冬、五味子で養陰生津復脈、白朮、神麴で健脾和胃などを加減した。2例(毎週月曜朝に昏迷を起こす11歳男児、毎夜子時に夜驚を繰り返す8歳男児)はいずれも初回服薬後から発作が消失し、継続服用で再発なく経過した。(2016, 楊仁坤

小児夜驚は急驚風・慢驚風の一症状と位置づけ、病機は外感熱邪・痰熱・肝風・驚恐・脾腎虚弱が中心であるとする。急性の熱証では桑菊飲(桑葉、菊花、連翹、薄荷、苦杏仁、桔梗、蘆根、甘草)銀翹散(金銀花、連翹、桔梗、薄荷、竹葉、牛蒡子、荊芥穂、淡豆豉、淡竹葉、甘草、蘆根)蝉蛻、鉤藤、黄芩、知母、川貝母、栝楼、僵蚕、全蝎、蜈蚣、羚羊角などを加え、清熱・化痰・平肝・止驚を図る。痰熱内擾には温胆湯(半夏、陳皮、茯苓、枳実、竹茹、甘草、生姜、大棗)導痰湯(半夏、天南星、枳実、茯苓、陳皮、甘草、生姜)保和丸(山楂、神麴、莱菔子、半夏、陳皮、茯苓、連翹)を用いる。驚恐による夜驚には仁熟散(柏子仁、熟地黄、枸杞子、菊花、人参、五味子、枳殻、山茱萸、茯神、肉桂)磁朱丸(磁石、朱砂、神麴)遠志、石菖蒲を加え、あるいは益脾鎮驚散朱砂安神丸(朱砂、黄連、当帰、生地黄、炙甘草)、転倒後の瘀血には血府逐瘀湯(桃仁、紅花、当帰、生地黄、赤芍、川芎、柴胡、枳殻、桔梗、牛膝、甘草)を用いる。慢驚風では人参、黄耆、当帰、白朮、白芍、黄連、半夏、肉桂、陳皮、木香、炮姜、天麻、鉤藤、炙甘草で補脾平肝し、脾腎陽虚には附子理中湯(附子、人参、白朮、乾姜、甘草)四神丸(補骨脂、肉豆蔻、五味子、呉茱萸、生姜、大棗)、陰虚には大定風珠(白芍、阿膠、亀板、鼈甲、牡蛎、麻仁、五味子、麦門冬、炙甘草、生地黄、鶏子黄)竜骨、青蒿、知母、牡丹皮を加えることを推奨している。また、急性期は早期・徹底治療を行い、「驚久成癇」への移行を防ぐことを強調している。(2002, 高発明

20例の小児夜驚に対し、桂枝加竜骨牡蛎湯(桂枝、白芍、生姜、大棗、炙甘草、竜骨、牡蛎)甘麦大棗湯(甘草、小麦、大棗)の合方を基本とし、調陰陽・和営衛・鎮静止驚・養心安神を目的に治療した。基本処方は桂枝9g、白芍9g、竜骨30g、牡蛎30g、小麦30g、炙甘草12g、生姜9g、大棗12枚で、表虚には黄耆、白朮、防風、心神不安には酸棗仁、合歓花、夜交藤、茯神、自汗・盗汗には浮小麦、糯稲根、陰虚内熱には生地黄、麦門冬、地骨皮、五味子、心虚胆怯には竜歯、珍珠母、脾胃虚弱には党参、白朮、山薬を加減した。20例中**著効15例、有効4例、無効1例、総有効率95%**であり、陰陽両虚・陽不守陰による夜驚に対して有効な治療法であると報告している。(2012, 牛文貴)

10歳男児の難治性夜驚症例で、高熱後から3年間、睡眠中に突然起き上がり泣き叫ぶ発作を繰り返していた。証は痰熱鬱結肝胆・魂不内舎と弁証し、温胆湯(陳皮、半夏、茯苓、枳実、竹茹、炙甘草、生姜、大棗)を基本に、葛根、黄芩、柴胡、白芍を加えて清熱化痰・安魂定志を図った。初診5剤で夜驚は消失し、二診では余邪未尽と判断して葛根・柴胡・黄芩・白芍を去り、鬱金を加えて継続したところ、1年以上再発を認めなかった。著者は、高熱により津液が損傷して痰熱が形成され、肝胆に鬱して「肝不蔵魂・魂不内舎」となることが夜驚の病機であり、温胆湯による清熱化痰と少陽・肝胆の調整が奏効したと考察している。(1997, 李宏陽

8歳女児が喧嘩による強い驚恐を契機に夜驚を発症し、入眠約30分後に突然起き上がって泣き叫び、外へ走り出そうとする発作を毎晩繰り返した。証は心肝陽亢と弁証し、開竅鎮驚・清相火を治法として、当帰、石菖蒲、双鉤藤、白芍、柏子仁、霊磁石、珍珠母、生竜骨、牡蛎、柴胡、竜胆草、朱砂を投与した。3剤で症状はほぼ消失し、入眠時の軽い唸り声のみ残存したため、天竺黄、琥珀を加えて3剤追加し、その後18日間再発を認めなかった。著者は、夜驚は驚恐により心肝陽亢となり、陽が陰に入れず陰陽不和を来すことが病機であり、開竅・鎮驚・清火によって肝陽を鎮めることが治療の要点であると考察している。また、夢遊病との鑑別として、夜驚は入眠後まもなく発症し、発作後は再入眠して翌朝は記憶がない点を挙げている。(1990, 魏以倫