PTSDを漢方で改善|論文

まとめ:PTSDの中医病機は、強い「驚・恐」により気機が乱れ、肝失疏泄・腎精損傷を基盤として、痰・気・瘀が互結し心神・脳神を障害する病態と整理できる。特に「驚則気乱→気乱生痰→痰気膠結」と「恐傷腎→腎虚易恐」の悪循環が重要で、長期化すると肝鬱脾虚、心腎不交、脳髄失養へ発展する。治療の中心は疏肝解鬱・理気化痰・養心安神・益腎填髄で、頻用薬は柴胡、白芍、枳実、甘草、茯苓、半夏、陳皮、当帰などであり、とくに四逆散(柴胡、白芍、枳実、甘草)が中心的な処方として繰り返し研究されている。病態に応じて半夏厚朴湯(半夏、厚朴、茯苓、生姜、蘇葉)、逍遥散(柴胡、当帰、白芍、白朮、茯苓、炙甘草、生姜、薄荷)、百合地黄湯(百合、生地黄)、酸棗仁湯(酸棗仁、茯苓、知母、川芎、甘草)、柴胡加龍骨牡蛎湯、金匱腎気丸などを使い分ける。近年はさらに**「脳玄府失調・BBB障害」**という観点から、初期は補虚、中期は理気・化痰・活血、慢性難治期は安神・開竅・通絡へ治法を変える病期別治療も提唱されている。

2018年、牟翔宇らは、災害後の心理的外傷を中医の情志病として捉え、急性応激反応(ASR)は「心悸・怔忡」、PTSDは「鬱証・不寐・百合病」に近いと整理している。ASRでは心・腎を中心に、気血陰陽の不足、痰火、水飲、瘀血などを病機とし、心虚胆怯には安神定志丸(石菖蒲、遠志、茯神、茯苓、龍歯、党参)、心血不足には帰脾湯(白朮、人参、炙甘草、茯苓、龍眼肉、黄耆、酸棗仁、当帰、遠志)を挙げる。PTSDでは、不良な情志刺激による気機鬱滞を中心病機とし、肝気鬱結、痰気鬱結、心腎失養などに弁証する。肝気鬱結には柴胡疏肝散による疏肝理気・解鬱、痰気鬱結には半夏厚朴湯による行気散結・化痰を用いるとしているが、柴胡疏肝散・半夏厚朴湯の構成生薬は本文には記載されていない。また百会など督脈への鍼治療も紹介されている。 (2018年、牟翔宇)

PTSDを中医の心悸、不寐、鬱証、梅核気、臓躁、百合病、奔豚気などの情志病として捉え、中心病機を**「驚則気乱→気乱生痰→痰気膠結」**とし、脳神失調、肝失疏泄、驚恐傷腎を重視する。すなわち単なる肝鬱ではなく、痰気互結と五臓の機能失調へ発展する病態としている。治療では白龍解鬱顆粒の臨床報告、芍薬苷の抗抑鬱・抗不安作用、百合地黄湯(百合、生地黄)、十味温胆湯(半夏、枳実、陳皮、茯苓、酸棗仁、遠志、五味子、熟地黄、人参、甘草、生姜、大棗)などを紹介している。百合地黄湯はPTSDモデルラットの不安・探索行動を改善し、十味温胆湯も情動行動を改善してアルプラゾラムに類似した効果を示したとしている。各方剤の構成生薬・用量は本文には記載されていない。 また鍼灸では頭部電鍼、百会―大椎などが検討され、高覚醒や身体化症状の改善、HPA軸や海馬の糖質コルチコイド受容体などへの作用が報告されている。ただし著者ら自身、研究は多施設RCTの不足、中薬成分の管理、作用機序の不明確さなどが課題としている。(2014年、李西雲)

PTSDを従来の「肝」「心」単独から論じるのではなく、「脳心関連」から捉える。素体の禀賦不足による脳髄虚を本とし、大驚・大悲・大恐によって気機が逆乱し、臓腑を損傷、さらに痰濁・瘀血が心を犯すことを標とする「本虚標実」であり、治法を補益心脳、安神定志、兼活血祛痰としている。 具体的には、恐傷腎・髄海不足には地黄飲子加減(熟地黄、巴戟天、山茱萸、石斛、肉蓯蓉、附子、五味子、肉桂、白茯苓、麦門冬、菖蒲、遠志、生姜、大棗、薄荷)による滋腎陰・補腎陽・化痰開竅を提示する。情志刺激からは「由驚而発→気乱生痰→痰気膠結」と進展するとして、調和五臓・理気化痰を治療原則としている。 また甘麦大棗湯(甘草、小麦、大棗)、半夏厚朴湯(半夏、厚朴、茯苓、生姜、蘇葉)、酸棗仁湯(酸棗仁、茯苓、知母、川芎、甘草)、柴胡加龍骨牡蛎湯(柴胡、龍骨、黄芩、生姜、鉛丹、人参、桂枝、茯苓、半夏、大黄、牡蛎、大棗)、越鞠丸(香附、川芎、蒼朮、神麹、梔子)など、歴代の精神・情志病に用いられてきた処方を挙げている。白龍解鬱顆粒は二陳湯と逍遥散の化裁であることまで本文に記載されているが、具体的構成生薬は記載されていない。※太字の各方剤構成は、原論文に構成記載がないものについて標準的な原方構成を補記した。(2016年、盧家春)

CNKI収載の中医によるPTSD治療194報をCiteSpaceで解析した文献計量研究で、研究の中心は電鍼、四逆散、海馬であり、とくに四逆散は中薬研究で最も目立つテーマの一つであった。 中薬治療は主として**「肝主疏泄・調暢情志」と「腎主蔵精・在志為恐」**から弁証され、四逆散(柴胡、白芍、枳実、炙甘草)による調和肝脾、金匱腎気丸(熟地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子)による補益腎気が代表的研究方剤である。四逆散はPTSDモデルにおける睡眠障害、海馬神経細胞の障害・放電、CA1・CA3領域などを改善し、金匱腎気丸はPTSD妊娠ラットの子世代の行動、5-HT・ドパミン、関連経路・遺伝子発現への調節作用が報告されている。 鍼灸では「調神醒脳」針法(百会、神庭、四神聡、風池)と「疏肝調神」針法(百会、内関、神門、太衝)が中心で、海馬・扁桃体を含む脳機能ネットワークや学習記憶への作用が研究されている。2017年以降は、単なる臨床効果から海馬・扁桃体・皮質酮など神経生物学的機序の解明へ研究の重点が移っている。 ※方剤の構成生薬は本文には記載されていないため、上記は標準的原方構成を補記したもの。(2024年、張光武)

創傷後憤懣障害(PTED)を中医の「鬱証」と捉え、情志不遂により肝失疏泄→気機鬱滞が生じることを中心病機とする。気鬱が長引けば血瘀・痰湿・鬱熱・食滞などの「六鬱」へ波及し、心神失養を伴うため、治療は疏肝解鬱・調暢気機を基本とする。 72例を無作為にセルトラリン単独群と、セルトラリン+加味解肝煎群に分け4週間治療したところ、併用群はPTED自評尺度、BEI、中医証候、鬱悶不舒状態のいずれも単独群より有意に改善し、中医証候の有効率は79.41%対68.57%であった。 加味解肝煎は白芍24g、酒当帰15g、香附15g、清半夏9g、厚朴9g、蘇梗12g、茯苓15g、夏枯草12g、枳殻9g、黄芩12g、茵陳12g、薏苡仁30g、太子参15g、砂仁9g、陳皮9g、生甘草6gで、1日1剤を煎じて200mLとし朝夕食後に服用した。 臨床的には、PTEDのような**「不公平な出来事を契機に、怒り・屈辱・恨み・無力感が長期間持続する病態」を肝鬱気滞として疏肝解鬱する**という考え方と、その具体的処方を示した研究である。 (2024年、王一帆)

PTSDの核心病機を**「脳玄府失調―血液脳関門(BBB)障害」と捉え、初期は正気不足による脳玄府本虚、中期は痰・気・瘀の結滞による脳玄府鬱閉、末期は病久による脳玄府痿閉へ進展すると整理している。初期は扶正補玄を治法とし、八珍湯(人参、白朮、茯苓、甘草、熟地黄、当帰、白芍、川芎)、金匱腎気丸(熟地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子)で気血・腎精を補い脳玄府を養う。 基于“脑玄府失调-血脑屏障...讨创伤后应激障碍的辨治思路_柏… 中期は祛邪清玄を基本とし、四逆散(柴胡、枳実、白芍、炙甘草)で気鬱を開き、痰瘀互結には癲狂夢醒湯(桃仁、赤芍、柴胡、青皮、陳皮、香附、大腹皮、木通、蘇子、半夏、桑白皮、甘草)を用い、さらに川芎、天麻、石菖蒲、羌活などの風薬で開玄通竅する。末期は安神養玄を治法として安神定志湯と加味温胆湯を合方し、本文では人参、当帰、茯苓、半夏、竹茹、陳皮、枳実、龍歯、石菖蒲、茯神、遠志を挙げ、難治・反復例では全蠍、僵蚕などの虫類薬を加えて搜風剔絡・通絡開竅・安神を図る。 すなわち「扶正補玄→祛邪清玄→安神養玄」**という病期別治療と、難治例に風薬・虫薬を積極的に用いる点が本論文の特徴である。(2024年、柏若雪)

COVID-19後に生じるPTSDを通常のPTSDとは区別し、その基本病機を**「肺腎両虚、脳神失養」とする。COVID-19では疫毒が肺を傷り、PTSDでは「驚則気乱、恐則気下」により腎気・腎精が損傷して脳神を養えなくなるため、発病期は肺鬱腎阻**、回復後に精神症状が遷延する時期は肺腎両虚・脳神失養へ移行すると考える。肺属金・腎属水の「金水相生」と腎精による脳髄の滋養を重視し、治療の根本を肺の調整に置いている。 治療は「治未病」に基づき4期に分け、未病期は清肺益肺・醒脳安神、COVID-19とPTSDが併存する急性期は透邪解毒・顧護正気・醒脳安神、COVID-19回復後もPTSDが続く持続期は補肺益腎・醒脳調神、瘥後防復期は益腎安神を中心とする。 具体的な方剤名・構成生薬・用量は本論文には記載されておらず、薬膳、鍼刺、艾灸、推拿、音楽療法、伝統功法などを各病期に応じて併用することを提唱している。(2023年、陸海鵬)

腫瘍関連PTSDを情志病として捉え、その病機を心・腎・肝・脾から整理し、「驚傷心神、恐傷腎精、肝鬱脾虚」を中心とする。癌の診断・治療という持続的なストレスにより、まず「驚」が心神を傷り、心気・心陰を消耗して心神失養・統摂失調を生じることを核心因子とする。一方、「恐」は腎を傷り、手術・化学療法などによる正気損傷も加わって腎気・腎精が不足し、「恐傷腎→腎虚易恐」という悪循環を形成し、恐怖、不安、抑鬱、絶望などにつながるとする。さらに肝鬱・脾虚が全経過を貫き、肝失疏泄による気滞から痰凝・血瘀が生じ、肝鬱克脾や久思傷脾によって脾失健運となり、痰・湿・瘀が相互に膠結する。長期化すると心腎不交、心神・腎精損傷へ波及し、多臓腑に及ぶ複雑なPTSDへ進展すると考察している。 したがって本論文の病機は、「驚傷心神」を核心、「恐傷腎精・腎虚易恐」を重要病機、「肝鬱脾虚→痰湿瘀」を全経過を貫く病機としてまとめられる。具体的な治療方剤・構成生薬・用量は本論文には記載されていない。(2021年、楊静怡)

PTSDの中心病機を**「腎損肝鬱」と捉え、「驚則気乱→気乱生痰→痰気膠結」と「恐則気下→恐傷精却→腎虚易恐」という二つの経路が合わさって発症すると考える。強い驚きによって肝の疏泄が失調し、肝気鬱結から肝鬱乗脾・脾失健運となり、痰が生じて痰気膠結し、恐怖、焦慮、抑鬱などが持続する。一方、持続する恐怖は腎気・腎精を損傷し、腎虚になることでさらに恐怖を生じやすくする悪循環を形成する。また肝胆の気機を整える「肝胆相済、勇敢乃成」、脾の思によって腎の恐を制する「思勝恐」も重視する。治療は疏肝解鬱・益腎填髄**を基本とし、「思勝恐」の情志療法を併用することを提唱しているが、具体的な方剤・構成生薬・用量は本文には記載されていない。(2021年、李雪梅)

PTSDに対する中薬治療の81処方・90生薬をデータマイニングし、用薬規律を解析した。使用頻度上位は甘草46回、茯苓42回、柴胡37回、白芍33回、枳実26回、桂枝21回、当帰20回、半夏19回、陳皮17回、大棗16回、生姜16回、白朮16回、牡丹皮16回、熟地黄15回、山茱萸15回、牛膝14回、附子14回、沢瀉14回、山薬14回、車前子14回などで、薬対では甘草-白芍、甘草-柴胡、白芍-柴胡が特に多かった。全体としてPTSDは**肝・腎を中心に、脾・心を合わせて治療し、「補虚瀉実・調整陰陽」「疏肝健脾・養心益腎」**を基本とする傾向が示された。高頻度生薬の組み合わせは特に四逆散(柴胡、枳実、白芍、甘草)を強く反映しており、四逆散には疏肝理脾・解鬱作用があり、PTSDに伴う睡眠障害、抑鬱・焦慮、胃腸症状などへの応用が示唆された。また高頻度薬には金匱腎気丸の構成も認められ、疏肝と補腎がPTSD中薬治療の二大軸であることが示されている。(2020年、庄逸洋)

PTSDと睡眠障害の関連を**「肝主疏泄・調暢情志」から論じ、PTSDでは脳神失調、恐傷腎に加えて、特に肝失疏泄による気機逆乱が重要であり、睡眠も肝藏魂を含む五臓の協調によって維持されるため、肝の異常がPTSDと睡眠障害を結びつける重要な病機とする。PTSDでは失眠、悪夢、睡眠維持困難などが極めて多く、睡眠障害がPTSDを悪化させ、さらにPTSDが睡眠を障害するという悪循環を形成するため、「从肝論治」により疏肝・調肝し、睡眠を改善することがPTSD全体の改善につながる**と考察している。中薬では消痰解鬱方、清心解鬱湯、百合地黄湯(百合、生地黄)、補肝湯、四逆散(柴胡、枳実、白芍、甘草)、逍遥散(柴胡、当帰、白芍、白朮、茯苓、炙甘草、生姜、薄荷)などを挙げ、百合地黄湯はPTSDモデル動物の焦慮を軽減し探索行動を改善したとしている。なお、これら方剤の構成生薬・用量は原論文には記載されておらず、上記構成は原方を補記した。(2016年、張沢国)

PTSDと睡眠障害の関連を**「肝主疏泄・調暢情志」から論じ、PTSDでは脳神失調、恐傷腎に加えて、特に肝失疏泄による気機逆乱が重要であり、睡眠も肝藏魂を含む五臓の協調によって維持されるため、肝の異常がPTSDと睡眠障害を結びつける重要な病機とする。PTSDでは失眠、悪夢、睡眠維持困難などが極めて多く、睡眠障害がPTSDを悪化させ、さらにPTSDが睡眠を障害するという悪循環を形成するため、「从肝論治」により疏肝・調肝し、睡眠を改善することがPTSD全体の改善につながる**と考察している。中薬では消痰解鬱方、清心解鬱湯、百合地黄湯(百合、生地黄)、補肝湯、四逆散(柴胡、枳実、白芍、甘草)、逍遥散(柴胡、当帰、白芍、白朮、茯苓、炙甘草、生姜、薄荷)などを挙げ、百合地黄湯はPTSDモデル動物の焦慮を軽減し探索行動を改善したとしている。なお、これら方剤の構成生薬・用量は原論文には記載されておらず、上記構成は原方を補記した。(2016年、張沢国)