においの話

2021年3月29日

重度の糖尿病患者では、インスリン抵抗性が強くなり筋肉や脂肪細胞へのブドウ糖の取り込みが出来なくなります。身体はこれに反応して、脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪を分解してケトン体を作って、それをブドウ糖の代わりのエネルギー源にします。ケトン体とは、βヒドロオキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンの3つですが、このアセトンが揮発性で呼気から排出されて、甘酸っぱいような香りがします。ケトジェニックダイエットを高いレベルで行った場合も、同じ臭いがすることがあります。

腸内細菌が食物繊維をエサにして発酵を行い短鎖脂肪酸を作ります。この短鎖脂肪酸は3つあり、1つは料理に使うお酢の主成分である酢酸、もう1つはブルーチーズのすっぱさや香りのもとで、保存料や着香剤としても使われるプロピオン酸、そしてバターの香りのもとになっている酪酸です。

赤ちゃんの便が最初は甘酸っぱい臭いで、くさい臭いがしませんが、離乳食を食べ出すと大人と同じ臭いがしてくる理由は、腸内フローラが変化するからです。乳児期はビフィズス菌などの短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が優性ですが、離乳食を食べ出すと大人の細菌叢に近づいて行きます。この短鎖脂肪酸の臭いが赤ちゃんの便の臭いです。

食物繊維の摂取が足りないと、腸内細菌はタンパク質が分解されて生じた尿素や死んだ腸管上皮細胞のかけら、あるいは腸管内の細菌を餌にします。それによって、多量のアンモニアや硫化水素、インドール、スカトール、、イソ吉草酸(きっそうさん)などが産生されます。アンモニアはおしっこの匂い、硫化水素は卵が腐ったような匂いで、戦時中は毒ガスとしても利用されました。温泉の臭いも硫化水素です。インドールは薬品臭、スカトールは大便臭です。このインドールやスカトールは、薄めると花の臭いになり、香水にも使われています。イソ吉草酸は臭くなった靴下の匂いです。つまり、食物繊維の不足で短鎖脂肪酸の産生が低下するとうんちが臭くなったり、排便後のトイレが臭くなります。

イヌのうんちよりもネコのうんちが臭い理由は、イヌが雑食でネコが肉食だからです。肉食のネコは、タンパク質が主食なので、腸内細菌がこのタンパク質を分解してこれらの臭いにおいがします。

あまり知られていませんが、においとトラウマとは密接な関係にあります。男性恐怖症の人は少なくありませんが、電車などでの親父臭に対して敏感に反応してしまいます。嗅覚はトラウマ記憶の格納に関係すると言われる扁桃体を経て大脳皮質に伝わります。この扁桃体と嗅覚の近い関係性のために、他の五感に比べて、においとトラウマの結びつきが強くなると考えられています。