IBS検査について

まとめ:IBS検査は白黒はっきりさせる検査ではなく、あくまで目安としての可能性を調べる検査です。

IBS検査はIBSの方の約半数で陽性になります。感染後IBSの既往がなくても、自己免疫疾患が存在する可能性があります。

少なくても下痢型IBSは、自己免疫疾患と考えて行くべきです。

慢性的に下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群(IBS)は、全人口の11%に及ぶ一般的な疾患です。

このIBSのIBSの10%〜35%は、急性の食あたりや胃腸炎の後に、小腸内細菌増殖症(SIBO)が起こり、結果として慢性のIBSが発症することが明らかにされています。

①食中毒(カンピロバクター菌、サルモレラ、赤痢菌、病原大腸菌)が起きると、これらの菌は細胞致死毒素B(Cytolethal Distending Toxin B、CbtB)と言われる毒素を腸内で放出します。

②人体は異物であるこの毒素に対する抗CbtB抗体を作ります。

③この毒素のCbtBは、腸の収縮に関係するビンキュリンタンパク(Vinculin)とよく似ているために(分子模倣、molecular mimicry)、ビンキュリンタンパクに対する抗ビンキュリン抗体も同時に作るようになります。

④抗ビンキュリンの産生は自己免疫反応であり、腸神経の損傷とカハール介在細胞(ICC)および遊走運動複合体(MMC)の機能低下につながります。

⑤この抗ビンキュリン抗体が小腸を攻撃するため、小腸の蠕動運動が悪くなり、大腸の細菌が流入してSIBOとなり、その結果としてガスや下痢などを発症するIBSとなります。

IBS検査は、この抗CbtB抗体と抗ビンキュリン抗体を量的に測定する検査です。

検査では量的に測定したものを、カットオフラインを使って、上昇しているかどうか判定します。検査結果の判定は以下です。

2015年にPimentelらは、抗CdtB抗体および抗ビンキュリン抗体の測定によって、これらのバイオマーカーは、慢性下痢の精密検査においてD-IBSとIBDを区別するのに特に役立つ可能性を指摘しました。

ドットの値は極端なはずれ値です、これを意図的に除外して、有意差が出る結果になっています。

2017年にRazarieらは、抗CdtBおよび抗ビンキュリンの力価と陽性率はIBSサブタイプで異なり、IBS-下痢型とIBS-混合型では抗体レベルと陽性率が高く、IBS-便秘型の被験者では健康な対照と同様に低いレベルです。これらの抗体は、IBS-混合型およびIBS-下痢型の診断には有用であるように見えますが、IBS-便秘型には有用ではありません。さらに、これらの発見は、IBS-便秘型が下痢成分を伴うサブタイプ(すなわち、IBS-混合型およびIBS-下痢型)と病理生理学的に異なることを示唆していることを指摘しました。

2016年にBarlowらは、抗CdtB抗体および抗ビンキュリン抗体の測定では、IBS患者の56%で陽性になることから、その後の内視鏡検査が不要になるため医療費の削減に繋がることを指摘しました。IBS-下痢型および現在はIBS-混合型のバイオマーカーとして使用可能であるが、IBS-便秘型では使用できないことを指摘しました。

2021年のZakiらは、抗CdtB抗体および抗ビンキュリン抗体の測定を行って、これらのバイオマーカーとしての検証を行いました。感染後の状態の重症度を反映している可能性を指摘しました。

2019年にTallyらは、機能性ディスペプシア(FD)とIBS/FDのオーバーラップした症例の抗CdtB抗体および抗ビンキュリン抗体の測定を行いました。FDおよびIBS / FDの重複では、健康な対照と比較して、より高い抗CdtBが見られました。感染後のFDは、現在認識されているよりも一般的である可能性を指摘しました。

2020年にKimらは、韓国の胃がん摘出患者の循環する抗ビンキュリン抗体のレベルの上昇は、ヒトの胃の腸筋神経叢におけるカハール介在細胞(ICC)の密度の低下と有意に相関することを報告しました。胃手術を受けた45人の胃癌患者の胃標本を使用して、内側の円形筋のICC、および腸筋神経叢を数えました。カハール介在細胞(ICC)は消化管のペースメーカー細胞として知られており、急性胃腸炎は腸内の細胞骨格タンパク質であるビンクリンに対する抗体を介して腸の運動障害を誘発し、小腸細菌異常増殖を引き起こすことが報告されています。

2021年にAdlerらは、広範囲にわたる臓器線維症を引き起こす自己免疫性全身性血管障害である多発性硬化症(SSc)において、SScへの胃腸(GI)の関与は一般的であることから、IBS検査が新しいバイオマーカーになる可能性を指摘しました。