強迫性障害の中医論文
まとめ:強迫性障害は中医学では**「鬱証」「百合病」「癲証」などに属し、情志失調を契機に、痰・火・瘀・鬱が互結し、五神失調(神・魂・魄・意・志の失衡)と臓腑機能失調を来すことが基本病機とされる。病位は心・肝胆・腎を中心とし、病初は実証(肝鬱・痰火・気滞)が主体で、経過とともに心脾両虚・肝腎不足などの虚証を伴う虚実夾雑へ移行する。治療は疏肝解鬱・理気化痰・清火開竅・活血化瘀・安神定志を基本とし、慢性期には補益心脾・滋養肝腎を併用する。近年は五神理論に基づき、「魄弱」「肺腎気虚」「腎志不足・脾意亢奮」**などを強迫症の核心病機とする新しい理論も提唱されている。頻用生薬は人参、白朮、茯苓、遠志、石菖蒲、龍骨、牡蛎、酸棗仁、当帰、白芍、半夏、陳皮、竹茹、枳実、黄連、鬱金、丹参、柴胡、甘草など。
翟双慶教授は、気鬱痰擾を強迫症の核心病機と捉え、理気祛痰・重鎮安神を基本治法とする。基本方は解鬱化痰湯〔柴胡、桂枝、竜骨、牡蛎、焦檳榔、厚朴、枳実、党参、茯苓、半夏、陳皮〕で、病期に応じて加減する。初期は石菖蒲、鬱金、珍珠母を加えて健脾助運・養心安神、中期は黄芩、梔子、竜胆、合歓皮、川楝子、延胡索、緑萼梅、白芍、生地黄、石斛、淡竹葉、黄連、百合、藿香、佩蘭、荷葉などを随証加減し、後期は草果仁、常山、青礞石、天麻、釣藤、僵蚕、防風、肉桂、高良姜、知母、黄柏、熟地黄、山茱萸などを加える。重鎮薬として竜骨・竜歯・牡蛎・珍珠母・青礞石・磁石・鉄落を重視し、健脾益胃・養心安神・疏肝利胆・滋陰温陽を組み合わせて治療することを特徴としている。(2024, 胡東森)(2025, 陳弁秀)
気鬱化火証を呈する小児Tourette症候群(TS)に強迫症(OCD)を合併した38例に対し、参苓達鬱湯を4週間投与したところ、YGTSS、Y-BOCS、中医証候スコアはいずれも有意に改善した。総有効率はTS 86.84%、中医証候92.11%、OCD 86.84%で、副作用は認めず、1か月後の再発率は6.06%であった。著者らは、本病の病機を気鬱化火を中心に肝・脾・心の失調を伴う病態と捉え、疏肝解鬱・健脾化痰・清熱・安神を組み合わせた治療が有効であると結論している。参苓達鬱湯(柴胡、白芍、当帰、白朮、茯苓、党参、甘草、牡丹皮、梔子、鉤藤、石菖蒲、遠志、僵蚕、全蝎)。(2024, 周踞虓)
五神理論(神・魂・魄・意・志)から強迫症を考察し、「魄弱(肺魄の収斂・決断・実行力の低下)」を発症の初始かつ核心病機と位置付けている。魄弱を基盤として魂亢・志弱・意弱・神傷が出現し、強迫思考・強迫行為が形成される。治療は調気強魄を基本とし、琥珀多寐丸(琥珀、人参、白朮、茯苓、山薬、蓮子、遠志、石菖蒲、酸棗仁など)、定志丸(人参、茯苓、茯神、遠志、石菖蒲)、半夏厚朴湯(半夏、厚朴、紫蘇葉、生姜、茯苓)、帰脾湯(黄耆、人参、白朮、茯苓、当帰、竜眼肉、酸棗仁、遠志、木香、甘草、生姜、大棗)、遠志丸(遠志、人参、石菖蒲、茯苓など)を証に応じて用いる。症例では半夏、厚朴、紫蘇葉、茯神、桑白皮、白鮮皮、天麻、黄芩、木香、防風、生竜骨、琥珀粉に、後から人参・遠志を加え、強迫症状は徐々に改善した。(2024)
強迫性障害を五神蔵理論に基づき、「情志内傷」を基本病因、「脏神失守」を基本病機と捉え、調神定志を治療総則として、寧心安神・平肝攝魂・安肺定魄・益脾存意・補腎堅志の五大治法を提唱している。証に応じて、帰脾湯(黄耆、人参、白朮、茯苓、当帰、竜眼肉、酸棗仁、遠志、木香、甘草、生姜、大棗)、甘麦大棗湯(甘草、小麦、大棗)、七福飲(熟地黄、人参、当帰、酸棗仁、白朮、遠志、炙甘草)、天王補心丹(生地黄、玄参、天門冬、麦門冬、当帰、丹参、人参、茯苓、五味子、遠志、柏子仁、酸棗仁、桔梗)、百合地黄湯(百合、生地黄)、導赤散(生地黄、木通、竹葉、甘草)、朱砂安神丸(朱砂、黄連、生地黄、当帰、甘草)、滌痰湯(半夏、南星、枳実、茯苓、橘紅、石菖蒲、人参、竹茹、甘草、生姜)、生鉄落飲(鉄落、石菖蒲、遠志、天冬、麦冬、茯苓、貝母、胆南星、橘紅、玄参など)、柴胡疏肝散(柴胡、香附、川芎、陳皮、枳殻、白芍、甘草)、逍遥散(柴胡、当帰、白芍、白朮、茯苓、甘草、生姜、薄荷)、補肝湯(当帰、白芍、熟地黄、川芎、酸棗仁、木瓜、甘草など)、龍胆瀉肝湯(龍胆草、黄芩、梔子、沢瀉、木通、車前子、当帰、生地黄、柴胡、甘草)、天麻鉤藤飲(天麻、鉤藤、石決明、梔子、黄芩、杜仲、牛膝、益母草、夜交藤、茯神)、補肺湯(人参、黄耆、熟地黄、五味子、桑白皮、紫菀など)、四君子湯(人参、白朮、茯苓、甘草)、沙参麦冬湯(沙参、麦門冬、玉竹、天花粉、桑葉、生扁豆、甘草)、百合固金湯(百合、生地黄、熟地黄、麦門冬、玄参、当帰、白芍、桔梗、貝母、甘草)、二陳湯(半夏、陳皮、茯苓、甘草、生姜、烏梅)、三子養親湯(紫蘇子、白芥子、萊菔子)、清金化痰湯(黄芩、山梔子、桔梗、桑白皮、貝母、知母、瓜蔞仁、橘紅、茯苓、甘草、麦門冬)、補中益気湯(黄耆、人参、白朮、当帰、陳皮、柴胡、升麻、甘草)、理中丸(人参、白朮、乾姜、甘草)、小建中湯(桂枝、白芍、甘草、生姜、大棗、膠飴)、平胃散(蒼朮、厚朴、陳皮、甘草、生姜、大棗)、四苓散(沢瀉、猪苓、茯苓、白朮)、左帰丸(熟地黄、山薬、山茱萸、枸杞子、菟絲子、鹿角膠、亀板膠、牛膝)、金匱腎気丸(地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子)、六味地黄丸(熟地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮)、大補元煎(人参、熟地黄、山薬、杜仲、枸杞子、山茱萸、当帰、炙甘草)などを随証加減して用いる。症例では甘麦大棗湯合百合知母湯を基本に、淮小麦、大棗、甘草、百合、知母、九節菖蒲、郁金、丹参、青礞石、夜交藤、生晒参、肉蓯蓉、淫羊藿を配し、著明な改善を得た。(2023, 馬天木)
強迫症は肺腎を病位とし、「肺腎気虚」を病因、「肺虚魄擾・腎虚志弱」を核心病機とする新たな理論を提唱している。肺は魄を蔵して外界情報の受容・収斂を担い、腎は志を蔵して情報の記憶・統御を担うため、肺腎気虚では情報処理が障害され、反復思考・反復行為や恐怖・不安が生じる。治療は補肺斂魄・益腎強志を基本とし、酸味薬(烏梅、五味子)で肺気を収斂し、苦味薬(知母、黄柏)で腎を補い、さらに熟地黄、山茱萸、菟絲子、巴戟天、刺五加、肉桂、紫石英、牡蛎、磁石、鶏内金などを配合して肺腎を同時に補う。二診では百合、麦門冬、竜歯を加えて補肺斂魄・安神作用を強化し、反復洗手・強迫観念は著明に改善した。(2022)
温胆湯合酸棗仁湯加味による強迫症50例のランダム化比較試験を行い、12週間後の有効率は92%で、フルオキセチン群(68%)より有意に優れ、Y-BOCSスコアも有意に改善した。中医学的には、強迫症を肝気鬱結・痰濁内擾・胆胃不和・心神不寧による病態と捉え、理気化痰・和胃利胆・養血安神・清熱除煩を治法とする。使用方剤は**温胆湯(半夏、竹茹、枳実、陳皮、茯苓、炙甘草、生姜、大棗)と酸棗仁湯(酸棗仁、知母、茯苓、川芎、甘草)**を基本に、石菖蒲、遠志、夜交藤を加味して開竅化痰・安神益智作用を強化した。(2013, 顧海林)
強迫症を「精神行為病証」と捉え、初期は「志意弁証」、進行後は「志意弁証+臓腑気血津液弁証」を組み合わせることを提唱している。初期の核心病機は**「肾志虚弱・脾意亢奮(志不御意)」による強迫観念と、「肺魄強盛・肝魂鬱抑(魄不収魂)」による強迫行為であり、病勢が進むと心脾両虚、肝鬱、痰火、瘀血などを兼ねる。治療は強志定意・消肺魄舒肝魂を基本とし、帰脾湯(人参、黄耆、白朮、茯苓、当帰、竜眼肉、酸棗仁、遠志、木香、炙甘草、生姜、大棗)、天王補心丹(生地黄、玄参、天門冬、麦門冬、当帰、丹参、人参、茯苓、五味子、遠志、柏子仁、酸棗仁、桔梗)+朱砂安神丸(朱砂、黄連、生地黄、当帰、甘草)、柴胡疏肝散(柴胡、香附、川芎、陳皮、枳殻、白芍、甘草)などを証に応じて用いる。また、痰火擾心には黄連、竹茹、半夏、胆南星、全瓜蔞、陳皮、枳実、遠志、石菖蒲、酸棗仁、生竜骨、生牡蛎、心血瘀阻には桃仁、紅花、丹参、赤芍、川芎、延胡索、香附、青皮、生地黄、当帰**などを用いて神志と臓腑を同時に治療する。(2017)
張学文教授の強迫症治療経験をまとめたもので、肝胆気機鬱滞化火を本とし、痰濁・瘀血が脳竅を閉塞し、慢性化すると肝腎・心脾不足を伴う虚実夾雑が基本病機とする。治療は疏肝利胆・理気化痰・化瘀解鬱・醒脳開竅を主とし、慢性期には滋補肝腎・健脾養血を併用する。基本方は菖蒲鬱金湯合二陳湯を加減し、石菖蒲、鬱金、梔子、黄連、陳皮、半夏、茯苓、白朮、蒼朮、砂仁、山薬、車前子、木通、厚朴、甘草を基本に、痰盛には白附子、僵蚕、胆南星、天竺黄、竹茹、礞石、瘀血には桃仁、紅花、丹参、川芎、当帰、火熱には黄芩、黄連、肝腎不足には杜仲、桑寄生、山茱萸、枸杞子、補骨脂、菟絲子、女貞子、心脾不足には党参、当帰、茯苓、丹参、炒酸棗仁、竜眼肉などを加減する。症例では元麦甘桔湯合二陳湯を基本に約9か月治療し、強迫症状はほぼ消失、社会復帰を果たし、その後は丸剤で再発予防を行った。(2016, 董斌)
小児強迫症30例を対象に強志消迫散とセルトラリンを比較したランダム化試験で、8週間後の有効率は強志消迫散86.67%、セルトラリン73.33%と同等の有効性を示し、中薬群では有害事象を認めず安全性に優れていた。中医学的には、「腎志不足・脾意亢奮(志不御意)」を小児強迫症の基本病機とし、強志定意を治法とする。基本方である強志消迫散は、人参、茯苓、木香、玄参、沢瀉から構成され、人参・茯苓・木香で補志・安神・定魂魄を図り、玄参・沢瀉で滋陰益精・調和五臓を行い、志意の協調を回復させることを目的としている。また、患児の主な中医症状は強迫懐疑、強迫確認、強迫質問で、高頻度の兼症は胆怯易驚、急躁易怒、緊張不安、多夢であった。(袁红豆)
